あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

《このラブコメがすごい!!》堂々の三位!【感想】

 

 2020年8月24日読了。

あらすじ

「面白い=売れる」なんて幻想だ――。
大手ライトノベルまとめサイトラノベのラ猫」の管理人をしている高校生、姫宮新。
彼はとある記事作りをきっかけに、最近行われたネット小説賞《このラブコメがすごい!!》で三位に輝いた小説の作者が意中の少女、クラスメートの京月陽文であると知ってしまう。
彼女の投稿作品は厳密な意味でのラブコメではなかったが、ネット民の悪ふざけで炎上気味に盛り上がり、三位に押し上げられてしまったのだった。
そして、その悪ふざけを煽った張本人は「ラ猫」管理人の新。
だが、それを知った陽文は怒るワケでもなく、こう言った。
「わたしにラブコメの書き方を教えてほしいの」
新は陽文にドギマギしながらも、自分の考える「売れるライトノベル」の条件を示し、陽文が次の《このラブ》に向けて小説を書くのを手伝うことになる。
陽文が書いて、新がまとめサイトで宣伝する。
そうすれば、話題作になること間違いなし、と。ついでに陽文との距離も縮まれば言うこと無し。
だが、青春&恋愛偏差値ゼロの新は、陽文と距離が近づくほどに自分は陽文にはふさわしくないと思うようになってしまい……?
まとめサイト管理人と作家志望の少女が紡ぐ青春サクセスラブコメ

出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09451732

 

 

 第12回小学館ライトノベル大賞・ガガガ賞受賞作品。受賞時のゲスト審査員・川村元気氏の講評がこちら。

『《このラブコメがすごい!!》堂々の三位』は、ライトノベルの作家と、まとめサイトの管理人のラブコメというメタ構造が興味深く、なかばライトノベルについて勉強するような気持ちで読みました。発想の面白さもそうですが、ライトノベル執筆におけるHOW TOがよく研究されていると思いました。ただ肝心のキャラクターやラブストーリーに新鮮味が薄く、途中から何かの指南書を読んでいるような気分にもなりました。このメタ構造の題材だからこそのエンディングが見つかると良いのではないかと思いました。

出典:https://gagagabunko.jp/grandprix/entry12_FinalResult.html

感想(ネタバレ注意)

  いわゆる一般的な「クリエイターもの」と異なるのは、主人公がまとめサイトの管理人だけあって、ライトノベルの「売り方」に特化した考え方をしているところ。正直なところ、売れるためにライトノベルに面白さはいらない」という主人公の考え方は、頭では理解できても感覚的には納得しがたいものだった。ただ間違ったことを言っていないこともたしかで、そのあたりのさじ加減が巧妙。また主人公が物語開始時点で表紙のヒロインに惚れているのだが、この際「恋愛感情は論理的に説明できない」というスタンスが繰り返し強調される。ラノベの売り方に対する極端に合理的な考え方とは対照的な、こうした人間味のあるギャップも含めて、ここら辺作者は意識して主人公にヘイトが集まりすぎないように書いているのではないだろうか。

 このインタビューを読むと、作者はラノベ作家に知り合いが多く、昔からライトノベル市場をよく研究されていたようで、序盤のマーケティングの話はラノベ好きなら興味深く読めると思う。文章もキャラクターの作り方もこなれていて、違和感を感じさせない。

 しかし、肝心のストーリーには一部不満もある。まず、ヒロイン側の主人公に対する好意を抱く理由の描写が薄い。というより、ヒロイン自体の内面が読み取れる描写が少ない。主人公の妹の心理描写の方が細かく描かれていたのでは?(まぁ主人公にべったりなせいで登場シーンが多いから仕方ないっちゃ仕方ないが) 主人公の「理由のない恋」は作中で繰り返し述べられたし、クラスメートにいじめられても全く動じなかった主人公がヒロインの言葉で涙を流すシーンは、それに説得力を与えるに十分だったと思う。それに対するヒロインが主人公を好きになる理由が「自立していて大人っぽいから(意訳)」では弱すぎる気がする。ヒロインが主人公に好意を抱くエピソードが何か欲しかったところ。

 ラストも解釈違いというか、元も子もない言い方をすれば僕の好みではなかった。最終的に行動を起こすのはヒロインの方で、主人公はその間言ってしまえばウジウジしていただけ……。できるなら主人公には自身の力で変化し、ヒロインに働きかけて欲しかった。また、ヒロインが主人公の助けを借りずに大きな話題になる作品を書き上げる、というのも「ラノベに詳しい主人公が作家志望のヒロインに売れるラノベの書き方を教える」という大筋に沿っていないのではないだろうか。でもヒロインが書いた作品の内容を考えれば主人公との出会いがなければ書き得ないものだしありっちゃありなんか……? あと、終盤出てきたプロのラノベ作家の炎上商法は倫理的に問題視されないのかと思った。最終的に作中でこれが成功していたと言うことは、作者的には売れるんだったらああいうのもOKってことなんだろうか……。

 批判めいたこともいろいろ書いたが筆力のある作者だと思うし、この話を書いた後にどんな物語を描くのかにも興味があるので、いつか新作が出るなら読んでみたい(もっとも、本作から2年以上たっても音沙汰が無い以上望み薄だが……)。