どうぞ愛をお叫びください【感想】
2020年8月27日読了。
あらすじ
「ユーチューバーやろうぜ」。幼馴染の発した一言が、僕らの物語のはじまりだった。かくしてキャラの違いすぎる男子高校生4人がゲーム実況に参戦! 試行錯誤の末、人気実況者への道を歩き始める。だが、それとともに4人の間には不穏な空気が流れ始め、やがてある事件が勃発し――。リアル度&爽快度120%の最旬青春小説。
感想
思春期の人間関係における小さな違和感や心の動きを巧みに言葉に落とし込んでいる作品だった。当時自分が感じていた気持ちや感覚を言い表されたように感じる読者も多いのではないだろうか。これは驚くべき事で、なぜなら思うに中学生なり高校生なりの頃の物事に対する感じ方、周りの人々に対する感じ方はその頃にしか持ち得ないもので、数年前まで高校生であったはずの僕は既に当時の感覚を忘れつつあるからだ。優れた青春小説とは、忘れたはずのあの感覚を読者に思い出させることができるものだと思う。実を言うと、武田綾乃作品をきちんと読むのはこれが初めてだった*1が、他の作品にも手を伸ばしていきたい。
上記のあらすじに「リアル度」という言葉があるとおり、本作の魅力を担保する要素の一つにリアリティーがあげられるだろう*2。マリオパーティ2、Hearts of Iron、Civilization、オーバーウォッチ、悪魔城ドラキュラ。これらはいずれも作中に名前が登場したゲームである。ゲームだけでなく、ヨルシカやずっと真夜中でいいのに。といった今若い世代に人気のアーティストも名前が出てくる。こうした名前を挙げることで、作中世界が現実世界と地続きであると感じられ、物語をより身近に思える*3。ゲーム実況や動画編集の描写も丁寧で、作者の綿密な取材がうかがえる。特に面白かったのが、作中におけるYouTube上やTwitter上でのコメントの(ポジティブな面だけでなくネガティブな面も含めた)再現度だ。思わずこういうコメントあるある!と苦笑いしてしまう*4。
創作とプロデュースに対する向き合い方についても触れられる。
「僕らは消費されている」(p.235)
「(前略)私は、私自身を誰かに消費されたくない」 (p.241)
いずれも印象的なセリフだ。今に始まったことではないが、消費者である我々は作品だけではなく、クリエイター自身をも娯楽として消費してきた。クリエイター自身が消費者の興味を惹くために自らの作品を変質させたり、自らを加工したりすることもままあることだろう。
「(前略)自分が好きなものを世に出すか、みんなが求めているものを出すかといった悩みも、クリエイティブなことをしている人たちなら誰もが通る道かもしれない。創作を発信する、覚悟についての話でもあるんです」
本作はこうした悩みに答えや指針を与えるものではない。これは最初に触れた思春期における人間関係の小さな違和感やすれ違いについても同様で、それらに対して解決策が提示されるわけではないのだ。本作はあくまでエンタメ小説であり、物語はとある二つの事件*5の(一応の)解決をもってハッピーエンドで終わる。そして、浮き彫りにされたままの問題とどう向き合っていくかは、現実の我々自身に委ねられているのではないだろうか。
最後に参考資料を付記しておく。
見たことはないものの、僕でも名前を知っているほど有名な実況者との対談。作中に登場する高校生たちが4人でチームを組むのも彼らが念頭にあったからだとか。
僕よりよっぽど高尚な言葉での本作の書評。なんでミス研にこの話がいったのだろうか……。