あすはひのきになろう

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鏡のむこうの最果て図書館 光の勇者と偽りの魔王【感想】

 

 2020年9月7日読了。良質な児童書を読んだような懐かしい満足感に浸れる秀作でした。

あらすじ

 これは勇者と魔王の決戦を陰で支えた人々の《誰にも語り継がれないお伽噺》

 第25回電撃小説大賞《銀賞》受賞作!

 空間が意思と魔力を持ち、様々な魔物が息づく世界・パライナの北端に、誰も訪れない《最果て図書館》はあった。
 記憶のない館長ウォレスは、鏡越しに《はじまりの町》の少女ルチアと出会い「勇者様の魔王討伐を手伝いたい」という彼女に知恵を貸すことに。
 中立を貫く図書館にあって魔王討伐はどこか他人事のウォレスだったが、自らの記憶がその鍵になると知り……
 臆病で優しすぎる少女。感情が欠落したメイド。意図せず世界を託された勇者。
 彼らとの絆を信じたウォレスもまた、決戦の地へと赴く――
 これは、人知れず世界を守った人々のどこか寂しく、どこまでも優しい【語り継がれることのないお伽噺】

出典:https://dengekibunko.jp/product/saihate/321810000125.html

  受賞時の選評はこちらから→http://dengekitaisho.jp/archive/25/novel5.html 

 

感想

 魔王と勇者の戦いを描く王道ファンタジーでありながら主人公を勇者や魔王ではなく、ゲームで言えばイベントの一つに出てくるNPCみたいなポジションの人物に主人公として焦点をあてたことが面白い。また幕間に挟まれる過去の出来事と現在とのつながりを読者にミスリードさせつつ終盤へ持って行くギミックの上手さが印象的でした。前者のような作品は近年増えつつあるような気がしますが、本作は主人公と勇者たちのと心的・物理的な距離感が絶妙で、ストーリー展開に強引さ、不自然さが感じられず、よくなじんでいると思います。前半と後半で趣がやや異なり、前半のヒロインや勇者の問題を遠隔地から解決する展開も面白かったのですが、さすがにそれだけじゃ物語としてのパンチが弱かったかな……。後半はこれまでのエピソードを回収しつつ魔王との決戦に赴く王道ファンタジーといった感じでした。戦闘シーンなんかは、やはりそれを売りにした作品よりは盛り上がりに欠けるんですが、さまざまな人との出会いを通した主人公の心境の変化、成長を描く内面の描写や、舞台となる「最果て図書館」をはじめとする世界観、物語の雰囲気なんかが非常に好ましかったです。「優しい物語を書きたい、と思いました。」(p.324 あとがき)という作者の言葉通り、非常に心地よい読後感をもたらしてくれる作品でした。

 一方、物語の重要な部分である時系列がややわかりにくいと感じました。僕は途中まで「光の勇者=自称勇者=現魔王」(ネタバレにつき反転)だと思ってたんですが、どうもこれは間違いで、光の勇者は主人公たちの世代とは無関係なくらい昔の話(ネタバレにつき反転)みたいですね。この部分は一番重要なギミックにかかわる点なので、もう少しわかりやすく丁寧に描写して欲しかったところです。また続刊も出ているようですが、今巻で話がしっかりまとまっており、蛇足っぽくならないか心配です。ただ、非常に満足度の高い作品だったので、続きも読んでみようと思います。