あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。【感想】

 

 2020年9月16日読了。

あらすじ

 『おにぎりスタッバー』の鬼才による、渾身の青春群像

東京に旅立つ日。いつもの駅で、今日は新幹線を待つ。君は見送りに来るだろうか。最後の最後まで、お互いに言えなかったけど、本当に本当に好きだったんだ――とどまることなく進む、一度きりの高校生活。

出典:https://sneakerbunko.jp/product/platform6/321707000718.html

 

 

感想

 こないだ読んだ『おにぎりスタッバー』の作者ですね。前作が表現的な奇抜さ、現実とファンタジーをシームレスに描く世界観が前面に押し出されていたのに対し、本作では前作同様の軽妙な語り口は健在であるものの、奇抜さはなりを潜め、あくまでも等身大の高校生を描くことに徹しているように感じます。4人の高校生たちの視点をたどりつつさまざまな別れを描いています。学校内において本人が自覚している立ち位置と実際のそれが乖離していることはままあることで、複数の異なる視点から同じ人物を描くことでそれが表現されています。住野よるの『か「」く「」し「」ご「」と「』も短編ごとに話者が変わる作品で、少し似た雰囲気を感じました。

 本作の魅力は、思春期の男女が集う高校*1に流れる特有の空気感とか、そこにおける人間関係の核心めいた部分を巧みに言語化しているところにあると思います。具体的にどの部分が、というのは指摘しづらいのですが、そういった曖昧なものを言語化することによって、自然と感情移入してしまうような作りになっているのではと思いました。例えば、1話の序盤でセリカは、

 「好きでもない映画でも猫が死ぬと涙が出るとか、みんなが試験嫌だなぁって雰囲気になってると、実はそうでもないのに、そんな気がしてきたりとか、風が気持ちいい放課後の教室ではセンチメンタルな気分になっちゃうとか、そういう、自分のことなのに自分の意志でコントロールできない気持ちって、本当に自分の気持ちなのかなぁって」(p.35)

 と疑問を呈し、これを「環境の奴隷みたいな感じがして嫌だなぁ」(p.35)と話します。ぱっと読むと同調圧力のことかな?とも思うのですが、それとも若干意味がずれてる気がするんですよね。こうした誰もが思い当たる事象を言葉に落とし込んで顕在化させるのが上手いなぁと思います。

 表現の面では、龍輝にとっての神聖不可侵、善性の象徴(という表現が的確かはわかりませんが)としてのメロンや、ラストシーンで重要な鍵を握るギ=マニュエル・ド・オメン=クリスト、セリカから見た社会を表すキーワードであるバカの王国あたりは作者の独特な感性が発揮されているようで、いずれも非常に印象的でした。

 劇的な事件が起こるわけではなく、描かれているのは高校生活には避けられない普遍的な別れの物語であるのに、あるいはだからこそ、読後深い余韻が残りました。青春小説として、大変な秀作だったと思います。

*1:ここで非共学校出身者のブーイング