あすはひのきになろう

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竜と祭礼 ―魔法杖職人の見地から―【感想】

 

 2020年9月17日読了。

あらすじ

「この杖、直してもらいます!」
半人前の魔法杖職人であるイクスは、師の遺言により、ユーイという少女の杖を修理することになる。
魔法の杖は、持ち主に合わせて作られるため千差万別。とくに伝説の職人であった師匠が手がけたユーイの杖は特別で、見たこともない材料で作られていた。
未知の素材に悪戦苦闘するイクスだったが、ユーイや姉弟子のモルナたちの助けを借り、なんとか破損していた芯材の特定に成功する。それは、竜の心臓。しかし、この世界で、竜は1000年以上前に絶滅していた――。
定められた修理期限は夏の終わりまで。一本の杖をめぐり、失われた竜を求める物語が始まる。

 出典:https://www.sbcr.jp/product/4815603960/

  第11回GA文庫大賞奨励賞受賞時の選評はこちら。

 雰囲気作りがすばらしかったです。重さや長さ、材質に至るまで設定が詰められている魔法の杖の製作過程や、人種、宗教が細かく設定された世界観など、想像力をかきたてるユニークなファンタジーでした。バトルの一つもなく、それでいてなお面白いという稀有な作品です。
 物語の題材は魔法の杖の修理という地味なものながら、非常に“読ませる”話になっていました。なにより、杖職人というニッチな職業に焦点を当てたのが面白いですね。絶滅したはずの竜を探して竜の伝承を辿っていく物語も、ファンタジーで民間伝承ものをするという珍しい手法が、上手く機能していたように思います。竜探しという大規模になりそうな物語を、杖の修理という小さな話に落とし込んでいるところが非常に面白いバランスでした。
 不器用なイクスとまっすぐなユーイとのやりとりもほほえましく、楽しんで読むことができました。終盤で明かされる竜の真実、そしてそこからつながるラストが美しいのもポイント。静かで、小規模で、しかし壮大。矛盾するようですが、そんな物語でした。

出典:https://ga.sbcr.jp/novel/taisyo/11/index.html

 

 

感想

 発売前に表紙イラストがめちゃくちゃバズってたやつですね。

  方向性というか、雰囲気としては支倉凍砂の『狼と香辛料』からアクションとラブロマンスを取り除いて、魔法とファンタジーをマシマシにした感じ。全体としてかなり落ち着いた雰囲気で、派手なシーンはほぼほぼありません。求める竜の心臓へ迫っていくための手段として、冒険ではなく史料や口頭による調査が採用されている点は特筆すべきでしょう。しきたりの形骸化とか、民俗学っぽい要素も入っていて、作者はそういうことを研究されている/されていたのかなと思ってみたり。テーマとしては、「相互理解」がキーワードになるかなと思ったんですがどうでしょう。生者と死者、生者と生者、人間と異種族、いろんな関係性において他者をどこまで理解できるか、みたいな問いが根底にあったような気がします。そう考えると、特にユーイのラストシーンにおける答えは、希望を抱かせつつも拒絶を含んだかなりビターなものに思われます。

 題材と傾向が特異で、個人的には非常に面白く、今後に期待したい作品でしたが、やや気になった点もあります。あとがきを読む限り作者は「テーマを伝える手段としての物語」に強いこだわりを持っているようですが、恐らくこの考えが文章やキャラクターに淡泊な印象をもたらしているように感じました。ライトノベルはあくまでも娯楽小説であり、多少の「あそび」を持たせる余裕があっても良いのではないかと思います。