紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人【感想】
【2020年・第18回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞受賞作】紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人 (『このミス』大賞シリーズ)
- 作者:歌田 年
- 発売日: 2020/01/10
- メディア: 単行本
2020年11月28日読了。
あらすじ
証拠品の手紙付き!
読者参加型ミステリー
2020年 第18回
『このミステリーがすごい!』大賞
大賞受賞作
どんな紙でも見分ける紙鑑定士と、伝説のプラモデル造形家が、ミニチュアハウスに隠された殺人計画を追う!
その紙が答えを知っている――。
事件を解く鍵となる手紙を実際に手にとって、真相にたどり着け!
満場一致の高評価で大賞を獲得!
紙にまつわる蘊畜と模型にまつわる蘊蓄が披露され、ダブルで面白い。
語り口とキャラクターは即戦力。
――大森 望(翻訳家・書評家)
紙鑑定士に模型のモデラ―という未知のキャラクターにまず惹かれた。
彼らの繰り出す蘊蓄も巧みに事件に活かされ、独自の探偵物語の生成に成功している。
――香山二三郎(コラムニスト)
模型や紙について繰り出されるマニアックな蘊蓄が面白いだけでなく、
それらの知識の情報が、しっかり事件や捜査と絡んでいるため、飽きることなく最後まで読ませる。
――吉野 仁(書評家)
どんな紙でも見分けられる男・渡部[わたべ]が営む紙鑑定事務所。
ある日そこに「紙鑑定」を「神探偵」と勘違いした女性が、彼氏の浮気調査をしてほしいと訪ねてくる。手がかりはプラモデルの写真一枚だけ。ダメ元で調査を始めた渡部は、伝説のプラモデル造形家・土生井[はぶい]と出会い、意外な真相にたどり着く。さらに翌々日、行方不明の妹を捜す女性が、妹の部屋にあったジオラマを持って渡部を訪ねてくる。土生井とともに調査を始めた渡部は、それが恐ろしい大量殺人計画を示唆していることを知り――。
感想
正直ミステリとしては決して良くないのですが、エンタメ作品としてはかなり面白い部類に入ると思います。あとあらすじから紙が謎解きの鍵になるかと思ってたんですが、割と模型の話の方が比重が大きかったような……。まぁ紙の話もしっかり謎解きに絡んでくるんですが。
ミステリでよくある専門知識を持った登場人物が探偵役を務めるタイプの作品ですが、紙だのジオラマ*1だのについての蘊蓄をだれさせず読ませるリーダビリティの高さはすごいと思います。登場人物もしっかりキャラが立てられており、シリーズ化にも十分耐えうると感じました。というか続編があれば多分普通に読みます。
一方で、ストーリーが「そんなに上手くいく?」みたいな点が多く、いわゆるご都合主義っぽくなってしまっていたのはやや問題かなと思います。特に最初の話の枕になる小さな事件では行き当たりばっかり感が強いにもかかわらず主人公があっさり真相に到達し、何かもう一ひねりあると思いながら読んでいた身としては拍子抜けの感が強かったです。他にも重要な道具がたまたまグーグルマップに映り込んでたりとか、ピンチにはスーパーカーを乗り回す元恋人(?)が駆けつけてきてくれたりとか、一つ一つは小さな引っかかりでもストーリーの要所要所でまるで主人公たちのために用意された謎を解いているかのような展開が続くと、ミステリとしてはなんだかなぁと思わざるを得ません。本作が例えばメディアワークス文庫とかから出てたらもっと印象は違ったかもしれませんが。
一方でそのご都合主義的なテンポの良さが読みやすさや面白さにつながっていることも確かです。先にもちょっと触れましたけどインターネットやSNSを積極的に活用して真相に迫るのはいかにも現代的で、なんなら自分にもひょっとしたらできるのではないかと思っちゃったりします。元カノの乗り回すスポーツカーでパトカーとカーチェイスする描写も痛快ではありました。次作ではエンタメ要素をそのままに、さらにしっかりと組み立てられたミステリになっていることを期待します。
*1:作中人物の言い方にならえば「ディオラマ」