ジョゼと虎と魚たち【感想】
2020年12月30日鑑賞。ネタバレありの感想です。ご注意下さい。
あらすじ
趣味の絵と本と想像の中で、自分の世界を生きるジョゼ。
幼いころから車椅子の彼女は、ある日、危うく坂道で転げ落ちそうになった
ところを、大学生の恒夫に助けられる。海洋生物学を専攻する恒夫は、メキシコにしか生息しない幻の魚の群れを
いつかその目で見るという夢を追いかけながら、バイトに明け暮れる勤労学生。そんな恒夫にジョゼとふたりで暮らす祖母・チヅは、あるバイトを持ち掛ける。
それはジョゼの注文を聞いて、彼女の相手をすること。
しかしひねくれていて口が悪いジョゼは恒夫に辛辣に当たり、
恒夫もジョゼに我慢することなく真っすぐにぶつかっていく。
そんな中で見え隠れするそれぞれの心の内と、縮まっていくふたりの心の距離。
その触れ合いの中で、ジョゼは意を決して夢見ていた外の世界へ
恒夫と共に飛び出すことを決めるが……。
感想
原作は田辺聖子による30ページくらいの短編小説。よく1時間半に膨らませたなと思います。帰りに原作小説も買ってみたので読んだらまた感想あげます。
監督は『ノラガミ』のタムラコータロー。僕の最も好きなOPの一つ、『GOSICK―ゴシック―』のOPの絵コンテを切った方でもあります。脚本の桑村さや香はテレビドラマや映画を手がけている脚本家で、アニメ作品に関わるのは初っぽい? キャラ原案は岡田麿里原作の漫画『荒ぶる季節の乙女どもよ。』の絵本奈央、キャラデザ・総作監は『たまゆら〜hitotose〜』『妖狐×僕SS』『リトルバスターズ!』『変態王子と笑わない猫。』などでキャラデザを務めた飯塚晴子。コンセプトデザインは小説『君の膵臓をたべたい』の装画やアニメ『月がきれい』のキャラ原案で知られるloundraw。主題歌「蒼のワルツ」、挿入歌「心海」を歌うのは、歌い手出身で今年アニメ『呪術廻戦』のOPも担当したEve。音楽は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のEvan Call。そしてアニメーション制作は『交響詩篇エウレカセブン』『血界戦線』『文豪ストレイドッグス』『僕のヒーローアカデミア』などでアクションやロボットものに定評のあるボンズです。
一言でまとめると、良くも悪くも小さくまとまっている作品だったのではないか、という印象です。100手中80点と言ったところで、十分楽しめたけれど、どこか物足りないという感じは否めません。
アニメーション映画としての出来はかなり良い方だと思いますし、恋愛映画として見るなら、多くの人がそれなりの満足感を得ることができるでしょう。印象的だった演出としては、二人のまわりを回り込んで写すようなカメラワークとか、PVでもあがっていましたが、ジョゼの想像力が大きく羽ばたく場面なんかは力が入っていて良かったかと思います。声優の演技も、主演の二人は声優ではないながらも本職声優に勝るとも劣らない演技をされていたかなと思います。特にジョゼを演じた清原果耶は大阪出身だそうで、ネイティブな関西弁になってたんじゃないでしょうか(関西出身じゃないんでよく分かりませんが)。読み聞かせのシーンの緊張して早口になってしまうところとか上手いなぁと思いました。
キャラクターに関しては、正直好みは分かれるところかと思います。本作に本質的な悪人は(ほぼ)登場しませんが、ジョゼの序盤における理不尽な要求や暴力的なところに不快感を覚える人はいるでしょうし、オリジナルキャラの舞の(一見すると)自分本位なところはヘイトを集めかねないところでしょう。もちろん、それらは表層的な印象に過ぎませんが。
大きなストーリーラインは、よく言えばわかりやすいですが、悪く言えば単純です。正直なところ、キャラが交通事故に遭って……というのはいかにもありがちな展開ですし、終盤のみんなでジョゼを探すくだりも「なんでジョゼそんな意味深なこと言った……?」って感じで、みんなで探すシーン入れたかっただけじゃない?と思わないでもないです。物語展開自体に目新しさはないですし、そもそも斬新さや驚きを求めるべき作品でもないように思います。一方で、ジョゼや恒夫の心情の変化は追いやすいですし、非常に丁寧に描かれていると思います。脇を固めるサブキャラもそれぞれに必然性がある存在となっており、描くべきことを描いているという意味においては(この言い方も曖昧ですが)物語構成のお手本と言っても良いレベルの完成度ではないかと思います*1。
以上に挙げたような不満はあくまでも強いて言えばというレベルのものですが、本作に対する明確な批判は、以下の記事が参考になるかと思います。
この記事が指摘する「障害というハンデに対する『高下駄』としての芸術という才能」は鑑賞時に僕自身も感じたところで、この表現を受け入れるかどうかはそれこそ人によるでしょうが、本作はドキュメンタリーでも啓蒙番組でもなく、エンターテインメントであることを踏まえればやむを得ないことではないかと思います。この要素によって作品がより良くなっていることは明白でしょう。また、「創作物に障害者が登場することに意味を求めるか」という議論も本作をきっかけに(だと思いますが)Twitterなんかで見かけましたが、個人的には、(あくまで原則として)あらゆるキャラクターには物語に果たすべき役割、登場する必然性がなければならないと考えているため、「何の理由もなく」ただポンと障害者が登場する創作物というものはそもそもあり得ない(し、優れた創作物とは言えない)のではないではないかと思います。まぁここら辺はセンシティブな話題ですし、誰もが合意する正解なんてものはないので難しいところですが。
それはそれとしても、確かに「障害」というテーマに挑むには本作はややマイルドすぎるというか、美談に過ぎるという指摘はある程度的を射ていると感じます。『聲の形』のいじめ表現なんかと比較すれば、本作における「虎」の苛烈さは些細なものですし、かつそれは箱入り娘だったジョゼの社会と向き合う覚悟のなさに還元されています。スポンサーであろう大阪メトロに乗車する際に、毎回駅員が手伝って車椅子用の乗降スロープを使うシーンが入るのもなんだか白々しさを感じてしまいます。見方によっては、本作はエンタメ性を重視する余り、社会の障害者に対する負の側面を軽視しているという言い方もできるでしょう。また、恒夫は事故に遭って初めてジョゼと対等な視点を手に入れることに成功しており、これは裏を返せば健常者としての視点だけでは彼女に寄り添うことができなかったということも意味します。物語展開上その流れが一番描きやすいのは分かりますが、その点にも「障害」をテーマとして捉えた際の本作の限界を感じる気もします。
決して悪い作品ではない、というか演出や構成の面では十二分に良作ですので、割と万人におすすめできる作品だと思います。が、こうした諸々の点を含めると、個人的には「面白かった、でもどこか物足りない」という感想に落ち着きました。
*1:直前まで今期の某アニメを見ていたため若干評価上がりすぎている感もありますが……