愛されなくても別に【感想】
2021年3月4日読了。
あらすじ
第42回吉川英治文学新人賞受賞作!!
時間も金も、家族も友人も贅沢品だ。
共感度120%で大反響、続々重版!
「響け! ユーフォニアム」シリーズ著者が、息詰まる「現代」に風穴を開ける会心作!
遊ぶ時間? そんなのない。遊ぶ金? そんなの、もっとない。学費のため、家に月8万を入れるため、日夜バイトに明け暮れる大学生・宮田陽彩。浪費家の母を抱え、友達もおらず、ただひたすら精神をすり減らす――そんな宮田の日常は、傍若無人な同級生・江永雅と出会ったことで一変する!愛情は、すべてを帳消しにできる魔法なんかじゃない――。
息詰まる「現代」に風穴を開ける、「響け! ユーフォニアム」シリーズ著者の会心作!
感想
登場人物が絞られていることもあるかもしれませんが、メインとなる宮田と江永以外の、堀口とか木村も一面的なキャラ付けにとどまらず、多面的な顔を覗かせてくれる(語り手である主人公がそれに気づく)ところが良いですね。現実でも多分そうで、僕/あなたの嫌いなあいつだってきっと色々考えながら生きていて、こちらが理解しているのはきっとその一部分に過ぎないんですよね。
読んでいて特に印象的だったのはタイトル回収のくだり。
「アタシは、他人に愛されなくとも幸せに生きることを許されたい。いいじゃん、愛されなくても別に。他人から愛されなければいけないなんて、そんなのは呪いみたいなもんだよ」
これを読んで思い出したのは『猫物語(黒)』の阿良々木くんの「不幸だからって辛い思いをしなきゃいけねーわけじゃねーし恵まれないからって拗ねなきゃいけねーわけじゃねえ!やなことあっても元気でいいだろ!」って台詞です。本作の文脈とは大分ズレている気はしますが、心持ちとしてはどこか近いものを感じます。本作は現代の抱える様々な問題を示唆してはいますが、それに対して明確な解決策を導くわけではありません。宮田や江永を取り巻く陰鬱で閉塞感の漂う環境が根本的に解決されるわけでもありません。しかしながら、彼女たちの何気ない会話は、たとえ馴れ合いのようであっても互いを救い、根拠はなくとも何となく明日も生きて行けそうな力を生み出しているように思われました。愛がなかろうが絆がなかろうが幸福でなかろうが、それは生きることの妨げにはならない。ふてぶてしく「愛されなくても別に」と言いながら生きていく強さが現代人には必要なのかもしれません。