あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

昨日星を探した言い訳【感想】

 

 2021年4月12日読了。

 

あらすじ

総理大臣になりたい少女とすべてに潔癖でありたい少年の純愛共同戦線!
自分の声質へのコンプレックスから寡黙になった坂口孝文は、全寮制の中高一貫校・制道院学園に進学した。中等部2年への進級の際、生まれつき緑色の目を持ち、映画監督の清寺時生を養父にもつ茅森良子が転入してくる。目の色による差別が、表向きにはなくなったこの国で、茅森は総理大臣になり真の平等な社会を創ることを目標にしていた。第一歩として、政財界に人材を輩出する名門・制道院で、生徒会長になることを目指す茅森と坂口は同じ図書委員になる。二人は一日かけて三十キロを歩く学校の伝統行事〈拝望会〉の改革と、坂口が運営する秘密地下組織〈清掃員〉の活動を通じて協力関係を深め、互いに惹かれ合っていく。拝望会当日、坂口は茅森から秘密を打ち明けられる。茅森が制道院に転入して図書委員になったのは、昔一度だけ目にした、養父・清寺時生の幻の脚本「イルカの唄」を探すためだった――。

出典:https://www.kadokawa.co.jp/product/322004000166/ 

 

 

感想

 作者は『サクラダリセット』『階段島』シリーズの人で、僕の知る限り最も繊細な文章を書く作家の一人です。本作は作者にしては珍しく単巻完結もので、ストーリーは割と過去作と類似してるというか、思春期の少年と少女が出てきて、少年は少女のことをある種神聖視していて、お互い小難しいことを考えてすれ違ってて……みたいな感じです。こうやって書くとホントに毎回おんなじようなことやってんな。

 とはいえ、他作と比べて恋愛要素が前面に押し出されてるのは結構珍しい気がします*1。それに加えて、本作では差別と倫理が大きなテーマとなっています。青春小説でこういう話と絡めるのも結構珍しいんじゃないでしょうか。登場人物それぞれの考え方は主人公と対立する考え方である人物も含めて、いずれもある程度説得力を持って描かれていますし、差別に対していかに向き合うかという姿勢のいくつかの候補を本作は提示していると言えるでしょう。「イルカの唄」、赤いトランシーバー、ハイクラウン、左回りの時計といった象徴的なアイテムも上手く物語に組み込んでいますし、幕間で茅森が話している女性(とその結婚相手)の正体も当然予想は付きますが、主人公たちと重ね合わせたり語られていない部分を想像したりさせる構成も良いと思います。一方で終盤の主人公たちが仲違いするある事件は個人的にちょっと納得いかなかったですね。坂口本人もちょろっと言ってますけどあの場面でのあの選択は明らかに誤りですし、それまでの両者の信頼関係を踏まえると彼がああいう選択をしたのがどうにも理解しがたいんですよね。それがホントに彼女のためになると思ってる?みたいな。まぁなると思ってるわけでもないんでしょうが。

 ラストもなぁ……あんだけこじれた割には……みたいな肩すかし感がないかと言われると嘘になっちゃいますね。一連の事件があったからこそ今後の関係性がより強固になると思えばそうなのかもしれませんが。でもエピローグの茅森のモノローグがめちゃくちゃ良かったので不問にします。ああいうの、ベタはベタなんですけど良いですよね。大好物です。

*1:何となくこの人はいつも恋だの愛だのという言葉を持ち出すのを避けている感がある