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なめらかな世界と、その敵【感想】

 

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

 

 2021年5月日読了。

 

あらすじ

令和初/10年代最後の新星登場! 年刊日本SF傑作選に作品多数選出

複数の並行世界をめぐる少女たちの青春を描く表題作のほか、伊藤計劃作品にトリビュートを捧げた恋愛小説「美亜羽へ贈る拳銃」、ソ連製の人工知能を描く改変歴史「シンギュラリティ・ソヴィエト」、現代の修学旅行生が未曽有の災害に巻き込まれる書き下ろし「ひかりより速く、ゆるやかに」など、2010年代を代表する傑作SF小説・全6篇!

出典:https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014286/

 

 

感想

なめらかな世界と、その敵

 表題作。文章で我々と異なる世界の話であることを悟らせるのが上手い。まぁその分展開はちょっと安易な気もするけど悪くない。

ゼロ年代の臨界点

 架空のSF史。多分知識がないとあんまり楽しめなさそうなやつ。架空歴史ものでも文学に焦点をあてるものってあんまりない気がするので斬新ではあるかも。

美亜羽へ贈る拳銃

 伊藤計劃作品へのトリビュートだとか。脳をいじくって認識を変えるのが当たり前になった世界での愛のお話。かなり良かった。「語り」であることから始まって、最後に「語り」であることを再認識させる作り方が読者を引き込む上でよく作用していると思いました。

ホーリーアイアンメイデン

 手紙形式の短編。これも語り方が上手い気がする。読者は姉と同じ立場に立たされて、先を読む手を止められない。作者が初読時では気づけないと言っている姉の意図(リンク)、どうも調べてみると

 (前略)姉様は目を細めて、懐かしいなあ、父様が琴枝にも何か買ってあげようとしたら、皆仲良く幸せに暮らせるだけで十分です、それ以上に必要な物はありませんなんて答えるんだもの、とえくぼを見せながら仰っていましたが、私は上の空でした。(p.153)

 ご武運を、と申し上げて、元気でね、琴枝の一番欲しい物を送るからお土産も楽しみにしてて、と戻ってきたのが、思えば最後に私たちが面と向かって交わした言葉だったのですね。(p.157)

※ネタバレにつき反転、太字は筆者によるもの

 とまぁ、そういうことらしい。なるほどね……。

シンギュラリティ・ソヴィエト

 個人的に一番SFっぽいなぁと思ったやつ。アメリカとソ連人工知能が互いに人間を使って競い合ってるみたいな話。

 ヴィーカ の眼前、地下鉄駅と博物館を結ぶ人工知能通りは、見渡す限り、路面を這いずって進む大量の赤ん坊で埋まっている。赤ん坊たちはみな全裸で、軍隊の行進のごとく整然と四つん這いで進んでいく。(後略)(p.171)

 とか、

 会議室の扉を開くと、すぐ横に直立不動で、藍色の制服を纏った警備用レーニンが佇んでいた。(p.184) 

 とかシュールな描写が多い。収録作の中ではどっちかというととっつきづらさを感じるものの、話のシリアスさに比してオチの脱力感も悪くない。

ひかりより速く、ゆるやかに

 かなり好き。SFには低速時間ものというジャンルとしてそもそもこういうのがあるらしいんだけど、個人的にはSFというより青春ものというか、登場人物の関係性とか心情の描写とかそっちに惹かれた。表題作は、言ってしまえば、まぁそういうオチになるよね、みたいなところに落ち着くんだけど、こっちはそこまでにひねりもあるし、展開としてもアツい。ちなみに主人公は男女どっちでも解釈できるように書かれてるらしいけど*1、僕は普通に男だと思って読みました。

 全体通して思ったのは、「語り」がめちゃくちゃ面白い作者だなぁと(それこそインタビューでも言ってるけど)。もちろん伏線まいてギミック用意してどんでん返しして、みたいなとこももちろんすごいんだけど、読み手がどんどん読み進めたくなるように仕向ける語り口が上手いなぁと思いました。ただ、何でもかんでも百合百合って言えばいいもんじゃねぇだろ、とも思いました。少なくとも収録作の中で個人的にこれは百合だ!ってなったやつはなかった。いずれも友情や家族愛で十分解釈しうる範疇じゃない??

 以下書くときに参考にした感想。

zzz-zzzz.hatenablog.com

 めちゃくちゃ長いし正直全部は読んでないけど既読者に参考になるところ多数。

save-as.hatenablog.com

 「ゼロ年代の臨界点」の考察がなるほど、となった。ただの架空歴史ものじゃないかも。

*1:上記リンク先のインタビュー参照