ゴールデンタイムの消費期限【感想】
2021年5月19日読了。
あらすじ
今もっとも注目される俊英が贈るAI×青春小説
書けなくなった高校生小説家・綴喜(つづき)に届いた『レミントン・プロジェクト』への招待状……
それは、元・天才を再教育し、蘇らせる国家計画ーー「才能を失っても、生きていていいですか?」
自分の消費期限は、もう切れているのかーー
小学生でデビューし、天才の名をほしいままにしていた小説家・綴喜文彰(つづきふみあき)は、ある事件をきっかけに新作を発表出来なくなっていた。孤独と焦りに押し潰されそうになりながら迎えた高校三年生の春、綴喜は『レミントン・プロジェクト』に招待される。それは若き天才を集め交流を図る十一日間のプロジェクトだった。「また傑作を書けるようになる」という言葉に参加を決める綴喜。そして向かった山中の施設には料理人、ヴァイオリニスト、映画監督、日本画家、棋士の、若き五人の天才たちがいた。やがて、参加者たちにプロジェクトの真の目的が明かされる。
招かれた全員が世間から見放された元・天才であること。このプロジェクトが人工知能「レミントン」とのセッションを通じた、自分たちの「リサイクル計画」であることをーー。出典:http://www.sun.s-book.net/slib/slib_detail?isbn=9784396636012
感想
なんかず~~~~~~っと不穏でしたが、不穏なだけで普通にハッピーエンドでした。才能の枯れた元・天才たちが集められ、つよつよAI・レミントンの指示に従って再び優れた作品を世に送り出すという国家プロジェクトに携わることになる……みたいなお話*1で、ストーリー自体は正直めちゃくちゃ面白い!ってわけではないんですけど、本作が示すAIとの共存の在り方みたいなのは結構興味深いと思います。そもそも芸術方面でAIはあんまり役に立たないんじゃないかみたいな認識が一般的なんじゃないかと思うんですけど、「どんな作品が大衆にウケるか」のビッグデータをぶち込めば確かにレイアウトは描けそうですし、あとはそれを正確に出力できる装置があればいいわけで、それが本作では元・天才だと言うわけです。で、この場合作中でも触れられてますけど、猿がシェークスピア作品を偶然生み出したところでそれに価値があるか?という例の「無限の猿定理」*2が問題になるんですが、本作ではそれを「人間とAIの合作」という表現で回避しています。出力装置となる人間の方もそのことに悪感情をもってなくて、むしろ人間の方からAIに影響を与えることもあって、切磋琢磨しているみたいなイメージになっている。最終的に元・天才達が選ぶ道はそれぞれで、AIと協力する以外にも、才能に見切りを付けて趣味にする、それでも才能にしがみつく、別の道に進む、と多様でした。良かったのは全員この選択を後悔してないってことですね。みんな前向きに自分の選択をしている*3。
「もし、耐えられないと思ったなら、綴喜さんはいつでもセッションを取りやめることが出来ます。やりたくないなら、やらなくていい」
(中略)
「……逃げてもいいってことですか」
「逃げるわけではありません。世の中の大半の人間は才能が無くても生きています。(後略)」
(p.250)
当たり前ですけど、作中の彼らには当たり前じゃなかったのかもしれません。雰囲気クローズドサークルものだし、章の最後でやたら不安を煽る表現を挟むしで全体的に不穏な空気感とは裏腹に明るく未来に希望を感じさせる結末と前向きなメッセージが爽やかな読後感をもたらす作品でした。