キネマ探偵カレイドミステリー【感想】
2021年6月14日読了。第23回電撃大賞メディアワークス文庫賞受賞時の選評はこちら。
あらすじ
第23回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》受賞作!
留年の危機に瀕するダメ学生・奈緒崎はひょんなことから、秀才でひきこもりの映画オタク・嗄井戸と出会う。彼は部屋から一歩も出ることなく、 その圧倒的な映画知識で次々と不可解な事件を解決してみせ――。
感想
全体的に荒さが目立ち、物足りない印象を受けました。よくあるミステリ×何か、のパターンで、「何か」のところに映画が来たのが本作ですが、本作が作者のデビュー作であることを鑑みても、先行作である『ビブリア古書堂の事件手帖』なんかと比べると魅力は著しく劣ると感じました。
まず、語り部であるところの奈緒崎のキャラクターが直情的で思慮に欠け、好感を持ちにくかったです。恐らく探偵役で理屈っぽい嗄井戸との対比を効かせる意味で「俺馬鹿だからわかんねぇけどよォ」的なキャラにしたかったのかと思われますが、自らの怠惰により留年する、キレてほぼ初対面の相手をぶん殴るといったネガティブな面ばかりが目立っていたように思います。
また、映画とミステリを組み合わせるにあたり、まだ試行錯誤している段階という印象を受けました。事件のあらすじと映画のストーリーとを絡ませようとしているのはわかるのですが、ややぎこちないというか、映画の要素に必然性が内容にも感じられるエピソードもありました。また構成上やむを得ませんが、推理の決め打ち感が強く、映画知識でそんな都合良く解ける?みたいに思っちゃいます*1。
第一話「逢縁奇縁のパラダイス座」(『ニュー・シネマ・パラダイス』)
二人の出会い。これは映画知識を使って推理するのが一番自然なエピソードでした。鍵となる物品は、ググってみると一般的には「ナイトレート・フィルム」と呼ばれているようです。
第二話「断崖絶壁の劇場演説」(『独裁者』)
短いですが、大学という場特有の話でなかなか面白かったです。ただ謎が規模的にもトリック的にもしょぼいのが……。
第三話「不可能密室の幽霊少女」(『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』)
束ちゃん初登場。割と胸糞話ですが、全体的にリアリティに欠けるというか、そんなに上手くいくとはちょっと思えなかったかなぁ。この後教師がどうなったんだって言うのもちょっと気になります。
第四話「一期一会のカーテンコール」(『セブン』)
主人公の初手の悪戯が趣味悪すぎる。嗄井戸の過去を引き出すための物語上の要請でしょうが、ちょっと下手すぎませんか……? 語られる過去も唐突で、なんか言葉ばかりが先行して実感が伴わない印象でした。で、まさかの猟奇殺人回です。最後に派手な事件を持ってきたかったのかもですが、いくら束の兄が警察官だからってそう易々と事件資料を持ち出せるもんですかね……。登場人物のノリに比して事件が重大かつ深刻なのもギャップを引き起こしています。話そのものも気分が悪く、読んでいてあまり楽しい話ではありませんでした。