あすはひのきになろう

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アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー【感想】

 

 2021年6月29日読了。

 

あらすじ

SFマガジン百合特集掲載作を中心とした、世界初のアンソロジー

百合――女性間の関係性を扱った創作ジャンル。創刊以来初の三刷となったSFマガジン百合特集の宮澤伊織・森田季節・草野原々・伴名練・今井哲也による掲載作に加え、『元年春之祭』の陸秋槎が挑む言語SF、『天冥の標』を完結させた小川一水が描く宇宙SFほか全9作を収める、世界初の百合SFアンソロジー

出典:https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014242/

 

 

感想

キミノスケープ/宮澤伊織

 人称が「あなた」というのは、なかなか珍しい小説ではないでしょうか。百合という二人以上の女性の存在を必要とする題材を描くにもかかわらず、本作には「あなた」と姿の見えない誰かしか登場しません。短いながらもインパクトがありますが、興味深くはあっても、面白味を見出すには僕にはちょっと象徴的すぎたかもしれません。

四十九日恋文/森田季節

 収録作の中で最も着想がシンプルで洒落ているのが本作でしょう。終わってしまった関係のほんの少しの蛇足。最後の日に伝えるメッセージは―――みたいな感じ。日本語の表現の幅を感じさせる作品でした。

ピロウトーク今井哲也

 転からのオチが秀逸。小説作品がほどんどの短編集において、文章よりも絵として示された方が理解しやすく、印象深いこの作品が唯一の漫画作品として収録されたのも納得です。

幽世知能/草野原々

 収録作の中で最も気持ち悪く、おどろおどろしい一作。「理由」を問うのは「理解」のため。では、絶対的孤独の排除された理解のみが広がる「幽世」ではどうなんでしょう。オチ、人類のL.C.L化じゃん、って思っちゃったんですがどうなんでしょう……。キャラクター造形と一転攻勢は良かったですが、投げっぱなしジャーマン感もなきにしもあらず。

彼岸花/伴名練

 ストーリーテリングの妙手としての手腕を、本作でも遺憾なく発揮しています。交換日記の形式で綴られる二人の女性の書く文章から、時代が、世界観が、そして二人の関係性がゆっくりと明らかになっていく過程をとても趣深く感じました。

月と怪物/南木義隆

 「ソ連百合」らしい。よくわからん島国の謎カルチャーとごったにされて、旧ソ連も困惑してるんじゃなかろうか。あえてキャラクターから一定の距離を取ったような、歴史小説のような三人称の文体が良い味を出しています。それでいながら、モチーフはロマンチックなのも良い。

海の双翼/櫻木みわ×麦原遼

 アンドロイド(?)と亜人(?)とおばあちゃん(?)との三角関係百合。僕の乏しい読解力と想像力からは絵面が浮かべづらい描写が多く、結構「?」となりながら読みました。

色のない緑/陸秋槎

 途中までこれミステリなんじゃねぇかと思いながら読んでました。タイトルについては、「Colorless green ideas sleep furiously - Wikipedia」を参照すると理解の助けになるでしょう。収録作の中ではかなり現実世界からの地続き感のある世界観で、作者の知識量には相変わらず脱帽ですが、ただやっぱり百合かと言われると……。訳文だからかもしれませんが、良くも悪くも淡々としてるんですよね。ただ、それはそれとして話自体は面白かったです。

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ/小川一水

 個人的には収録作の中で一番「百合×SF」らしいな、と思った作品。長編版もあるみたいで、気が向いたら読んでみようと思います。初めて読む作家さんでしたが、キャラも世界観も文体もかなりライト寄りで、もっと硬い文章を書く作者だと勝手に想像してたので一人で驚いてました。起承転結がはっきりしていて、ポップな印象ゆえ、収録作の中で最も読みやすかったです。もちろん、SFとしても面白い世界観でしたし、男女のジェンター規範がしっかり存在している社会の中での百合を描いた作品は本作だけだったので、そうした意味でも良かったです。