あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

タイタン【感想】

 

 2021年7月15日読了。

 

あらすじ

今日も働く、人類へ

至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。
人類は≪仕事≫から解放され、自由を謳歌していた。
しかし、心理学を趣味とする内匠成果【ないしょうせいか】のもとを訪れた、
世界でほんの一握りの≪就労者≫ナレインが彼女に告げる。
「貴方に≪仕事≫を頼みたい」
彼女に託された≪仕事≫は、突如として機能不全に陥った
タイタンのカウンセリングだった――。

アニメ『バビロン』『HELLO WORLD』で日本を震撼させた
鬼才野﨑まどが令和に放つ、前代未聞の超巨大エンターテイメント。

出典:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000326715

 

第42回吉川英治文学新人賞候補作。選評はこちら

 

 

感想

 エンタメ作品としてかなり良質な作品だと思います。SF畑の人がどう思うのかは知りませんが、少なくとも僕は十二分に楽しめました。最初「何コレ?」的な表紙も読了後に改めて見直すと感慨深いものがあります。物語のスケールの壮大さにはワクワクさせられましたし、緩急の付け方も巧みで読んでいて飽きることがありませんでした。「そう来たか!」となる展開が多いのも純粋に読んでいて楽しいです。世界観設定そのものに目新しさはない一方で、作者本人がインタビューで述べているとおり、「現実との地続き感」があるために作品世界を受容しやすく、また物語の大筋自体に斬新さがない点をギミックによって解消しており、既視感を感じさせませんでした。「働くとは何か?」という哲学的な問いに取り組みながらも議論が煩雑になっておらず、論点の整理が丁寧で、一定の結論に達している点も非常に好印象です。小説とは畢竟エンターテインメントであり、論文でも哲学書でもないということは言うまでもないですが、本作はその哲学的な問いをかなり上手く物語に落とし込みながら読んでいて面白いと感じられるように仕上げていると思います。そうそう、比較的ライトな作品も手がける作者らしく、登場人物も(もちろん人ではないAIも含めて)それぞれ魅力的であることも読みやすさと面白さに貢献していることは間違いないでしょう。

 一方で、難点をあげるとすればやはりオチということになると思います。どうにも投げっぱなしジャーマン感が強く、「で?」みたいに思わなかったと言えば嘘になります。一方で、作品世界に是か非という価値判断を付けることが本作にそぐうとは思いがたいですし、どのようなオチがより適切なのかと問われても応える術はありません。そもそもエピローグの最後に挿入されている一枚の画像からして解釈しがたく、作者の、もしくは作者を通したヘカテの意図を想像できていないのですが*1

 いずれにせよ、我々が何気なく口にしている、もしくは行為として行っている「働く」ということに対して、一つの見方や、もしかしたらポジティブな意味合いさえも見出すきっかけになる作品だと思います。

*1:よく考えれば解釈不能、というのが作品世界におけるあの存在のありようから言って正解かもしれませんが、それにしては画像が結構具体的な気がするんですよねぇ