あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

先生とそのお布団【感想】

 

 2021年8月20日読了。

 

あらすじ

まだ「何者」にもなれない「誰か」へ――。

家に猫がいる者ならたいてい「うちの猫は特別だ」という。
だが彼とともにいた猫は本当に特別だった。
九年間、小説を書くときにはいつもそばにその猫がいた。その猫がいなければ小説なんて書けなかった。
彼は猫を飼っていたわけではなかった。ただ猫とともに暮らしていた。
――本文より抜粋
これは石川布団という作家と、人語を解す「先生」と呼ばれる不思議な猫とがつむぎ合う苦悩の日々。
企画のボツ、原稿へのダメ出し、打ち切り、他社への持ち込みetc...
様々な挫折と障害に揉まれながらも、布団は小説を書き続ける。
時には読者に励まされ、時には作家仲間に叱咤され、ひとつひとつの出来事に、一喜一憂していきながら、素直に、愚直に、丁寧に、時にくじけて「先生」に優しく厳しく叱咤激励されながら――。

これは売れないライトノベル作家と「先生」とが紡ぎ合う、己が望む「何か」にまだ辿り着かぬ人々へのエール。
優しく、そして暖かな執筆譚。
カクヨムで話題を呼んだ、奇才・石川博品の同名短編小説を、大幅加筆修正した完全版。
イラストは『バッカーノ!』『異世界食堂』など、各所で活躍中の人気イラストレーター・エナミカツミ

出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09451710

 

 

感想

 表紙でヒロイン面してる女の子はそんなに出てきません。

 初読みの作家でしたが、主人公をほぼ名前同じだし、自伝的小説かな?と思って調べたら思った以上に作者本人が書いてきた作品タイトルと、作中主人公が書いてる作品タイトルが酷似しててびっくり。各章も2012年~2017年の各年に対応する形で書かれています。ということで、もちろんフィクションではありますが、大分作者本人に寄せて書かれたライトノベルみたいです。ラノベ作家ものと言えばいくつか思いつきますが、こういう作者自身の執筆歴が強く反映された作品は珍しい気がします。そうしたリアリティの強いいわゆる「業界の裏側」的なものが覗ける面白さももちろんありますが*1、それ以上に「創作もの」としての面白さもあります。いわゆる「クリエイターもの」って、フィクションだとどうしてもエンタメですし、現実離れしないわけにはいかないところがあるかと思います。しかし、本作は(言葉を話す猫という非現実的な存在が登場するとはいえ)どこまでも地に足ついた展開というか、良くも悪くも夢がないんですよね。書いても書いても全然売れないっていう。けど、不思議と悲壮感はなくて、同人誌で出したらめちゃくちゃ売れたり、それで自分のファンはちゃんといるんだって認識できたり、それに何より常に主人公を叱咤する「先生」の存在がある。

「報われぬまま書け、オフトンよ。わたしがおまえを見ていてやる」 p.274

 派手さはありませんが、読む者に暖かい読後感をもたらす、良作だと思います。

*1:中堅ラノベ作家がどのような生活を送ってるのか、原稿はどのように本になるのか、各レーベルによってどんな色があるのか、などなど