あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

日本SFの臨界点[恋愛篇]──死んだ恋人からの手紙【感想】

 

 2021年8月23日読了。

 

あらすじ

『なめらかな世界と、その敵』著者の新企画!

『なめらかな世界と、その敵』の著者・伴名練が、全力のSF愛を捧げて編んだ傑作アンソロジー。恋人の手紙を通して異星人の思考体系に迫った中井紀夫の表題作、高野史緒の改変歴史SF「G線上のアリア」、円城塔の初期の傑作「ムーンシャイン」など、短篇集未収録作を中心に恋愛・家族愛テーマの九本を厳選。

出典:https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014577/

 

 

感想

 個人的には、こっちの方が読みやすくて面白い作品が多かった気がします。題材的にも取っつきやすいですしね。こちらも特に面白かったものをいくつかピックアップして感想を軽く述べておきたいと思います。

和田毅「生まれくる者、死にゆく者」

 短編という限られた尺の中で世界観をスムーズに理解させ、それを活かしたストーリー展開が見事な秀作。テーマを「家族愛」と拡大解釈して編者が本作を選んだことも納得。

大樹連司「劇画・セカイ系

 いわゆる「セカイ系」のその後があったら……的な物語。そりゃあ、そうなっちゃうよねぇみたいな身も蓋もない展開を真摯に描いています。男からすれば仕方のない選択ですが、女の子の方から見れば悲恋でしかない、でも誰が悪いわけでもない……っていう。しかし、悲劇のままでは終わらないだろうことがラストで示唆されているのが救いです。

高野史緒「G線上のアリア」

 中世ヨーロッパに電話が存在したら、という架空歴史もの(という理解であってるかな?)。普段我々が何気なく使っているテクノロジーを改めて見つめ直す視点を提供してくれるかもしれません。世界史に堪能ならより楽しめるかも。使ってない知識はすぐ忘れてしまいますね……。本作を読んで思い出した歴史用語もチラホラ……。

扇智史「アトラクタの奏でる音楽」

 百合もの。何故か京都が舞台。これでB3? 工学部ってすごいね。近未来を描きながらも、人の心の揺れ動きは普遍的……って感じ。奇を衒ったところはないですが、むしろそのシンプルさが魅力的でした。

小田雅久仁「人生、信号待ち」

 収録作の中で一番お気に入りかもしれません。信号待ちという身近な題材を用いて、ふとしたロマンスが生まれる……的な流れと思わせての鮮やかな展開。ページ数が少ないのもスピート感があって良い。