あすはひのきになろう

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忘れえぬ魔女の物語【感想】

 

2021年8月25日読了。

 

あらすじ

今年進学した高校の入学式が三回あったことを、選ばれなかった一日があることをわたしだけが憶えている。そんな壊れたレコードみたいに『今日』を繰り返す世界で……。
「相沢綾香さんっていうんだ。私、稲葉未散。よろしくね」
そう言って彼女は次の日も友達でいてくれた。生まれて初めての関係と、少しづつ縮まっていく距離に戸惑いつつも、静かに変化していく気持ち……。
「ねえ、今どんな気持ち?」
「ドキドキしてる」
抑えきれない感情に気づいてしまった頃、とある出来事が起きて――。
恋も友情も知らなかった、そんなわたしと彼女の不器用な想いにまつわる、すこしフシギな物語。

出典:https://www.sbcr.jp/product/4815607708/ 

 

 

 第12回GA文庫大賞金賞受賞作品。受賞時の選評は以下の通り。

 誰も知らない無数の今日を知り永遠に近い時間のなかで生きる少女が、初めて出来た友達と少しずつ関係が変わっていく物語。
 等身大な少女たちの不器用で繊細な感情をうまく表現しており、まさに受賞作にあたる作品だと確信しました。
 友情とは? 恋とは? 初めてできた友人に対して少しずつ芽生えていく「もっと近づきたい。もっと一緒にいたい」という綾香の戸惑いの感情は読んでいてもどかしくも感じ、愛おしく感じてしまいました。
 最後はこの理不尽な世界をうまく生かしたオチとなっており、読み終えた後に誰かに感想を述べたくなるそんな作品です。

出典:https://ga.sbcr.jp/novel/taisyo/12/index.html

 

感想

 やや評価の難しい作品でした。三章に書けてまでの流れは、ほぼ手放しに褒めても良いくらい好ましかったです。同じ日を複数回経験した後、そのうち一日だけが「採用」され、自分以外は誰もその「採用」されなかった日の記憶を持たず、主人公ひとりが全てを覚えている、という変則的なループ設定は斬新で面白く、二人が距離を縮める過程が丁寧で、エピソードひとつひとつも無駄がなく、心理描写も巧みです。しかしながら、後半の展開は作者の力の入れ方に比して描写や表現が追いついておらず、先走ってしまっている印象を受けました。それまでのゆったりした雰囲気から一転して急展開の連続で、正直ちょっとついて行きがたいというか、気後れする部分もありました。終盤で「ご都合主義」と自己言及してしまうのは言い訳じみて見えますし、人間原理による説明も特に記憶が代償という点はかなり苦しく映りました。無理にSF的説明を加えるのではなく、ファンタジーにしてしまっても良かったような気もします。そもそも記憶を消すことでそれまでの努力が「なかったこと」になるのは個人的には安易に過ぎると感じ、肯定しがたいです。あとがきを読むに作者はループ中の主人公の行為を争点としてとらえている節がありますが、重要なのはそこではないと考えます。

 この終わり方でどう続くのかわかりませんが、2巻も出ているようなので機会があれば読んでみようと思います。