あすはひのきになろう

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魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿【感想】

 

2021年9月2日読了。

 

あらすじ

第33回ファンタジア大賞――異次元の《大賞》受賞作!
統合暦2099年――新宿市。究極の発展を遂げた未来都市に、伝説の魔王・ベルトールは再臨した。巨大都市国家の輝かしい繁栄と……その裏に隠された凄惨な“闇”。新たな世界を支配すべく、魔王は未来を躍動する!

出典:https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000037/

 

 

 第33回ファンタジア大賞《大賞》受賞作品。受賞時のタイトルは『剣と魔王のサイバーパンク』。選考評は以下の通り。

細音啓
ベルトールとマキナのカップルがとにかく尊い……! 勇者も格好いい……! 魔王と勇者、男の友情もいいものですね。ベルトールやマキナもですが、種族ごとにセリフの外連味が用意されていて、愛着が持てました。世界観の「ごちゃ混ぜ」具合も楽しかったです。ひとつ言うとすれば、それぞれの出来事やバトルに詳細な説明描写が入っていますが、人によっては読み飛ばしてしまうかも……。とはいえ、《大賞》を冠するに十分な魅力ある物語だと思います!

橘公司
非常に面白かったです。序盤はよくある魔王ものかと思いましたが、魔王が目醒めた後のサイバーパンクディストピアの世界観との取り合わせでオリジナリティを出せていました。500年後の世界で魔王が悪戦苦闘し、のし上がっていくコメディ部分も面白い。特に、中盤からはもりもり読み進めさせる勢いがあります。クライマックスのバトルにも、魔王が新たな世界で得た『強さ』を活かせたらもっと面白くなるのではないかと思いました。選考委員としてだけではなく、一読者としても楽しく読めました。

● 羊太郎
ファンタジーサイバーパンクが融合しているという世界観が面白く、圧倒的なオリジナリティが確立されています。時代遅れの魔王が、必死に頑張って新時代に適応しようとする姿の面白さ、魔王としての威厳がありながらもこの愛嬌、一気に好きになります。完全に新しい世界観なので、初見のハードルの高さをどうするかがポイントですが、構築された世界観そのものは素晴らしい。特に、後半〜ラストバトルの展開は痛快そのもの。これぞ王道。総じて面白かったです!

ファンタジア文庫編集長
「魔王と勇者」というベタ中のベタとも言えるモチーフに「サイバーパンク」というおなじみのジャンルを掛け合わせた王道ファンタジー。ありそうでなかった組み合わせの妙を感じました。「SF=読む人を選ぶ」という先入観を打ち破る間口の広い作品で、新時代へと突入するファンタジア文庫を代表するにふさわしい《大賞》作品となりました。

出典:https://www.fantasiataisho.com/contest/

 

感想

 面白かったです。傲岸不遜な主人公のキャラクターは『魔王学院の不適合者』を、親しみやすさを演出する中盤の展開は『はたらく魔王さま!』を想起させますが、サイバーパンク*1な世界観をはじめ、うまく同系統の先行作品と被るのを避けていっている印象があります。作者がやりたいだろう(そして往々にして読者はさほど興味ないだろう)設定語りも我慢できていた方だと思います。設定を上手く物語に落とし込んでいる点は見事ですし、シンプルなストーリーラインながら前半の展開をしっかり後半に活かしていく構成も上手くはまっていて気持ちいい。設定が複雑な分、ストーリーやキャラがシンプルなのも良かったです。魔王が弱体化して云々みたいな作品は多々ありますが、そういう魔王が色んな人と協力して敵を打ち倒す、みたいな展開はわかっていてもやっぱりテンション上がってしまうところがありますね。総じてよく練られた一作だったと思います。

 一方で、このまま単純な俺TUEEE展開にならないか、中だるみしてしまわないかというシリーズ化に当たっての懸念はつきまといます。1巻がピークにならないことを願って、続きも読んでみたいと思いました。

*1:って何?