あすはひのきになろう

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ミモザの告白【感想】

 

2021年9月7日読了。

 

あらすじ

その告白が、世界を変える。
とある地方都市に暮らす冴えない高校生・紙木咲馬には、完璧な幼馴染がいた。
槻ノ木汐――咲馬の幼馴染である彼は、イケメンよりも美少年という表現がしっくり来るほど魅力的な容姿をしている。そのうえスポーツ万能、かつ成績は常に学年トップクラス。極めつけには人望があり、特に女子からは絶大な人気を誇っている――。

幼馴染で誰よりも仲がよかった二人は、しかし高校に進学してからは疎遠な関係に。過去のトラウマと汐に対する劣等感から、咲馬はすっかり性格をこじらせていた。

そんな咲馬にも、好きな人ができる。
クラスの愛されキャラ・星原夏希。彼女と小説の話で意気投合した咲馬は、熱い恋心に浮かれた。
しかしその日の夜、咲馬は公園で信じられないものを目にする。

それはセーラー服を着て泣きじゃくる、槻ノ木汐だった。

 

『夏へのトンネル、さよならの出口』『きのうの春で、君を待つ』で大きな感動を呼んだ<時と四季>シリーズのコンビ、【八目迷×くっか】が挑む新境地。とある田舎町の学校を舞台にした、恋と変革の物語。

出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09453018

 

 

感想

 意欲作であることは間違いないと思います。汐の容姿が中性的なものに設定されたのはフィクションやエンタメ作品の持つ限界を感じざるを得ませんが、主人公の一人称視点から語られるにもかかわらず、会話や文章、エピソードからそれぞれのキャラクターが実像をもって立ち現れる感覚があり、「空気」に左右される思春期の集団が持つ雰囲気の描写にも優れていたと思います。普遍的な三角関係を物語に取り込んでいる点も面白い。トランスジェンダーに関する議論の中にポリアモリーを主張する(厳密言うと違うかもしれませんが)人物を放り込んでくるのも興味深い。読んで楽しいタイプの作品ではありませんが、一読の価値はあります。

 しかしながら、今巻だけではテーマに対する結論が決定的に不足しています。今巻の内容は主人公の中で疑問が芽生えるという問題提起にとどまっており、これを展開の丁寧さと受け止めることも可能ですが、消化不良な印象は否めません。特に「気持ち悪い」に関する問題はなあなあですませてはいけないものでしょう。今後の展開で、より踏み込んでいってくれればと思います。