あすはひのきになろう

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アメリカン・ブッダ/柴田勝家(ハヤカワ文庫JA)【感想】

 

2022年2月20日読了。

 

あらすじ

人類の未来を問う。民俗学×SF作品集

アメリカ大陸で未曾有の災害が発生。取り残されたのは、仏教を信じ続けるインディアンだった。星雲賞受賞作を含む著者初の短篇集

出典:https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014602/

 

 

感想

 作者、強そう(小並感)。民俗学×SFという謳い文句ですが、どっちかというと民俗学要素の方が全体的に強めな気がしました。もちろん、SFっぽい作品もありましたが。

雲南省スー族におけるVR技術の使用例

 第49回星雲賞【日本短編部門】受賞作品。これ今でこそ読むとそれっぽい印象を受けますが、初出2016年なんですよね。時代が追いついてきたせいで斬新さが薄れて損しちゃっている気がします。

鏡石異譚

 未来の自分からのアドバイスに従って行動していると……というお話。思っていた方向とは違いましたが、記憶と認識について言葉にせずとも誰もが何となく感じていることを描き出し、自らの依って立つ現実の脆弱さを感じさせられます。一方で、それ自体を悲観的に感じる必要もない……って感じですかね。

「全ての人間の記憶を書き換えられたのなら、それはすでに過去を改変したことと一緒だよ。この世の全て、今まで起こってきた事実というものは、言ってしまえば全て人々の記憶の積み重ねだからね」(p.96)

邪義の壁

 壁が厚すぎる、それはそうなんですよね。ただ、「ウワヌリ」自体の気味の悪さはよく描けていて、様々な不都合を塗り固めてきた壁に最終的に穴がぶち空いて内と外がつながるというのも示唆的で良い。オチもじわじわくる不気味さがある。

一八九七年:龍動幕の内

 南方熊楠孫文が出てくる。作者の長編の前日譚だそう。SFというよりはミステリ風味で、現実の歴史のその後とのつながりを想起させるオチが良い。

検疫官

 『キノの旅』っぽさがあるせいか、個人的には一番好き。物語を排除する国で検疫官として働く男の話。物語を排除とか無理でしょ、って思ってたら案の定。この話自体が物語というメタ構造も良い。

アメリカン・ブッダ

 小難しさが先に立って、のめり込めたかというと微妙。仏陀の話は示唆的に富み、デジタル世界ですら分断と破壊が蔓延する様は皮肉が効いています。ただ、その混乱も元を正せばミラクルマンのせいじゃね?とも思うんですが。

 

 どうしてもわかりやすい面白さに目を取られてしまうせいか、表題作や星雲賞受賞作より、真ん中らへんのお話の方が好みだったかな。