アオハルデビル/池田明季哉(電撃文庫)【感想】
2023年2月1日読了。
あらすじ
青春―それは願いに焦がれ、ときに“魔が差す”時間。
その夜、僕の青春は〈炎〉とともに産声をあげた――
スマホを忘れて夜の学校に忍び込んだ在原有葉(ありはらあるは)は、屋上を照らす奇妙な光に気づく。そこで出会ったのは、闇夜の中で燃え上がる美少女――伊藤衣緒花(いとういおか)だった。
「もし言うことを聞かないのなら――あなたの人生、ぶっ壊します」
そんな言葉で脅され、衣緒花に付き合う羽目になった有葉。やがて彼は、一見完璧に見えた彼女が抱える想いを知っていく。モデルとしての重圧、ライバルとの対立、ストーカーの影、そして隠された孤独と〈願い〉。
「……僕は衣緒花のことを、もっと信じるべきだった」
夢も願いも青春も、綺麗事では済まされない。〈悪魔〉に憑かれた青春の行き着く先は、果たして。出典:https://dengekibunko.jp/product/aohaldevil/322206001003.html
感想
イギリスを舞台にグラフィティにのめり込む青年たちを描いた『オーバーライト』の作者による新作。悪魔に取り憑かれたために突然体温が急激に上昇、ほっとくと発火にまで至る症状に襲われるようになったヒロインを、主人公がエクソシストとして寄り添い、問題を解決しようと奮闘します。ヒロインは現役のファッションモデルで、目指すショーの一番手を勝ち取るためストイックな努力を欠かさない一方で、ライバルもいるようで……みたいなお話。
上手くまとまっているけど小粒感が強い。前作の題材にオリジナリティがあった分、半分『青春ブタ野郎』シリーズの焼き直しみたいになってしまっているのは残念です。叙情的でポエミーな文体は、ハマる人もいるでしょうが、たまに空回り感があります。ヒロインは学校で「ティラノサウルス」と呼ばれているって設定なんですが、高嶺の花で告ってもこっぴどく振る女の子を普通の高校生は恐竜に喩えないでしょ。強そうでインパクトあるあだ名にしたかったんだろうけど違和感がすごい。主人公が心の中で呼ぶとかならわかるんだけども……。そういうところ含め、短い一文を改行しまくって情緒に畳みかけてくる感じとか、まぁ好きな人は好きでしょうといったところ。
展開について、まぁ一回解決と見せかけて~というフェイントのところで、「えっそれだと屋上の時の説明できなくない?」と思ったら後から主人公も「やっぱり屋上の時の説明できないやん!」ってなってたのにはがっくりきましたが、シナリオ自体は筋が通っていたと思います。ヒロインの我の強さを象徴するような真の願いも、ヒロインのキャラやモデルというあり方にマッチしていて納得感がある。ただこれは裏を返せば意外性がなかったということも意味します。特にファッションものとしては妥当すぎるというか、面白味にはやや欠ける気もしてしまいました。また、ヒロインの主人公に対する好感度がいつの間にか高くなっていたように感じられたのも引っかかりました。確かに中盤いろいろなイベントがあったのはあったんだけども、ヒロインが惚れる理由としては弱い気がして、終盤は何かいつの間にか盛り上がってんなという他人事感が強かったです。ライバルのロズィのやり口が、心情は理解できるものの、かなり悪質なのもキャラのヘイト管理の甘さを感じてしまいます。
総じて、ある程度形は整っているものの、細かい粗や足りない部分が目についてしまった印象です。完全に続刊前提、シリーズ化する気満々の作りですが、今後どの程度伸びるのかは未知数に思いました。