みるならなるみ/シラナイカナコ/泉サリ(集英社オレンジ文庫)【感想】
2022年10月20日読了。
あらすじ
「ねえチカ、私たちの約束を覚えてる?」
男子たちに嫌がられた。だから女子だけでバンドを組んだ。けど欠員募集に応募してきたのは、紛れもない男で…。(みるならなるみ)新興宗教で「幸福の子」と崇められる四葉は、唯一の友人の秘密を知りある罪を犯す。(シラナイカナコ)ガールズバンドと新興宗教、全く異なる世界に属する少女たちの鮮烈で泥濘んだ感情を、生々しく繊細な筆致で描くデビュー作。
『シラナイカナコ』は2021年度集英社ノベル大賞〈大賞〉受賞作品。受賞時の名義は佐久間泉。吉田玲子、今野緒雪、桑原水菜、三浦しをんによる選評はこちら。
感想
本書は中編2作を収録しており、「みるならなるみ」の方はガールズバンドのお話。脱退したメンバーの代わりとして突然現れた音大生の男との出会い、また目標とするフェスでの優勝へ向かっていく過程を通して、バンドのフロントマンとしていつも気を張っている主人公の揺れ動く心の機微を描きます。主人公の心情が飾らない等身大の言葉で綴られている印象があり、多少強引な展開はあれども物語がまっすぐこちらに届いてくる感覚がありました。個人的には、さやかのような人物に感情移入してしまいがちなので、もう少し彼女がどうなったかの話も知りたい気もしますが。
「シラナイカナコ」は生まれた時から新興宗教にどっぷりはまった生活をしてきた女性の中学時代から大人にかけてのお話。主人公の家にある一枚の絵から、過去に彼女が犯した罪や過ちを振り返ります。こちらが受賞作。「みるならなるみ」とは打って変わって、暗く陰鬱な心情が描かれますが、選考委員も口を揃えて述べているとおり、表現力と描写力が抜群に優れていたかと思います。日常の何気ない動作を小説的な暗喩表現につなげる目のつけどころが非常に素晴らしく、三浦しをんが指摘している「主人公の服が袖から垂れている描写」などはその最たるものでしょう。やはりリアリティの問題や展開の強引さはありますが、主人公を筆頭に、みなどこが歪で屈折した感情を持つ登場人物たちのありようが、まざまざと立ち現れる生々しさがありました。
作者は17歳だそうで、その年齢に引きつけて作品がどうこう、と述べるのはあまり品が良いとは言えませんが、今後の作品に是非期待したいです。残念ながらあまり話題になっていないようですが、もっと評価されて欲しい一作でした。