ベーシックインカム/井上真偽(集英社)【感想】
2021年10月19日読了。
あらすじ
遺伝子操作、AI、人間強化、VR、ベーシックインカム。
未来の技術・制度が実現したとき、人々の胸に宿るのは希望か絶望か。
美しい謎を織り込みながら、来たるべき未来を描いたSF本格ミステリ短編集。
日本語を学ぶため、幼稚園で働くエレナ。暴力をふるう男の子の、ある“言葉”が気になって――(「言の葉の子ら」 第70回推理作家協会賞短編部門ノミネート作)豪雪地帯に取り残された家族。春が来て救出されるが、父親だけが奇妙な遺体となっていた。(「存在しないゼロ」)
妻が突然失踪した。夫は理由を探るため、妻がハマっていたVRの怪談の世界に飛び込む。(「もう一度、君と」)
視覚障害を持つ娘が、人工視覚手術の被験者に選ばれた。紫外線まで見えるようになった彼女が知る「真実」とは……(「目に見えない愛情」)
全国民に最低限の生活ができるお金を支給する政策・ベーシックインカム。お金目的の犯罪は減ると主張する教授の預金通帳が盗まれて――(「ベーシックインカム」)
出典:https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771679-5
感想
ミステリ×SFをテーマに、近未来の技術が当たり前となった世界における謎と人々のあり方が描かれます。いずれの短編も二重のどんでん返しが仕込まれているのが特徴でしょうか。決してつまらないわけではありませんが、全体的にやや小粒な印象を受けました。SFというジャンルを先行して提示している分、オチが予想しやすかった作品があったことも一因かもしれません。
「言の葉の子ら」
幼児と関わる機会に乏しいので、こういう言葉遣いがされるのかどうか実際のところはわかりませんが、面白い視点からの謎解きだと思いました。改めて見直すと、エレナはめちゃくちゃ自由行動が許されてるんですね。
「存在しないゼロ」
めちゃくちゃ大雑把に言うと、人間に不都合な自然のあり方をどこまで歪めていいか……みたいな話ですかね。新たな技術は新たな摩擦を生み得るけど、それとどう向き合うかは各々に委ねられてる……みたいな。これに限ったことではありませんが、謎解きとテーマが短いお話の中に詰め込まれてるんで、どうしてもちょっと浅い印象を受けちゃいますね。
「もう一度、君と」
収録作の中ではこれと次のやつが比較的お気に入り。叙情的なSF、良いですよね。涙の落ち方からの推理も良い。
「目に見えない愛情」
二度にわたるどんでん返しが一番綺麗に決まっていたような気がします。正直予想の範囲外とは言えないけど、起承転結の作り方が上手い。収録作の中では技術がかなり肯定的に捉えられているところも印象的です。
表題作ですが、転からのオチがちょっと力業に映ります。ある登場人物に対する印象を反転させる描写があんまり説得力なかったかなって感じ。