あすはひのきになろう

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蝶と帝国/南木義隆(河出書房新社)【感想】

 

2022年10月3日読了。

 

あらすじ

20世紀初頭、帝政末期のロシア。時代の悪意に翻弄された一人の女性の愛と復讐を、新鋭が描破する。「百合×歴史×SF」傑作長篇。

出典:https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309030517/

 

 

感想

 帝政ロシア末期を舞台に、ロシア革命の波に巻き込まれる女性を描きます。SF要素どこ……?と思ったけど主人公のキーラが持ってる謎の能力のことか。超能力です!と殊更強調されるわけではないので、途中までキーラが何してるのかよく分からないまま読んじゃってました。

 人種や宗教、政治的立ち位置など、どの立場にも寄り添えない主人公が、それ故に政治へ無関心になり、一人の女性への情愛というか執着というか、そういった視野の狭い気持ちだけを抱えてしまうお話。キーラは周囲の人物や環境、才能なんかにも恵まれていて、にもかかわらず破滅したのは自業自得という見方もできますが、誰に対しても自らの心を開ききることのできないまま多くの知人を失ってしまった彼女には、切なさも感じます。やたらと細かい料理の描写は、ユダヤ人に対する虐殺や後半の革命における非日常との対比に見え、キーラ本人が経営者となり、次第に料理の現場から離れていくこととも一致します。激動の時代を生きた女性の半生に引き込まれる作品でした。