あすはひのきになろう

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聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語/春間タツキ(角川文庫)【感想】

 

2022年10月24日読了。

 

あらすじ

王宮の謎を聖女が解き明かす!大注目の謎解きファンタジー
霊が視える少女ヴィクトリアは、平和を司る〈アウレスタ神殿〉の聖女のひとり。しかし能力を疑われ、追放を言い渡される。そんな彼女の前に現れたのは、辺境の騎士アドラス。「俺が“皇子ではない”ことを君の力で証明してほしい」この奇妙な依頼から、ヴィクトリアはアドラスと共に彼の故郷へ向かい、出生の秘密を調べ始めるが、それは陰謀の絡む帝位継承争いの幕開けだった。皇帝妃が遺した手紙、20年前に殺された皇子――王宮の謎を聖女が解き明かすファンタジー

出典:https://www.kadokawa.co.jp/product/322103000576/

 

 

第6回角川文庫キャラクター小説大賞〈奨励賞〉受賞作品。受賞時のタイトルは『無能聖女ヴィクトリア』(焦田シューマイ名義)。受賞時の選評は以下の通り。

焦田シューマイさん『無能聖女ヴィクトリア』は、天然なヴィクトリアがほとんど悩まないので、逼迫した場面も明るく読めました。異世界ファンタジーにありがちな魔法世界で、ありがちに進むかと思わせて、予想外の謎解きになったところが光って面白かったです。ただし冒頭シーンはやりとりが軽すぎて、権威ある神殿の威厳が足りなかったかも。(荻原規子

奨励賞は焦田シューマイさんの『無能聖女ヴィクトリア』。世界観やストーリー、キャラクターに、どうしても既視感を覚えてしまったのが奨励賞に留まった理由かと思う。但し、ファンタジーとしての完成度は高いし、ミステリー要素もあり、たいへん読ませる内容だった。“物見”という設定もとても面白いし、考えさせられる。(中村航

出典:https://awards.kadobun.jp/character-novels/result/006.html

 

感想

 追放されそうになった聖女のもとに騎士がやってきて、自らの出生の秘密を明かして欲しいと頼まれ救ってもらう、というところから始まるお話。囚われの姫君を救い出す的な構図*1や舞台設定はかなり典型的なのですが、主人公の魔力や幽霊を視認することができる能力と騎士が過去に死んだとされた皇子か否か?という問いにより特殊設定ミステリとして読むこともできます。幽霊を見て話を聞くことができる能力と聞くとかなりチート臭いですが、死人のみんながみんな幽霊になるというわけではなく、思った通り意思疎通できるわけでもないため、結構抑制の効いた設定となっています。結局事件の解決に幽霊を見る能力が直接役に立ったかと言われるとそうでもな気もするし。

 話の転がし方は割合上手く、道化師っぽい役柄やピンチの時に駆けつけるための役柄など、キャラそれぞれにしっかり役割を与えて話を進めることで、手堅く話をまとめることに成功しています。なんとなく映画とか、単話のOVAの作りなんかを思わせます。ただそれ故に、特にサブキャラに顕著ですが、キャラそのものの魅力を引き出し切れていない印象もありました。主人公が見抜く「真実」に関する取り扱いも、これまたありがち*2ですが、対立軸をしっかりと設定しラストでの主人公の決意につながっています。既存の枠組みにオリジナリティを付与しつつ、地に足ついた物語展開で、作者の地力の高さが窺われる作品でした。

*1:物理的に囚われた状態からは初っぱなで早々に解放されるわけですが

*2:真実が人々を幸せにするとは限らない的なあれ