あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

デルタの羊/塩田武士(KADOKAWA)【感想】

 

2022年2月12日読了。

 

あらすじ

『罪の声』『騙し絵の牙』映画化。一番新作が待たれる作家、2年ぶりの新刊
製作委員会、制作会社、ゲーム、配信、中国、テクノロジー、コロナ後…… これが日本のアニメの“リアル”!

「俺たちはあまりに善人だ」
「誰かが羊飼いにならなきゃ、日本アニメは地盤沈下していく」

アニメ製作プロデューサー・渡瀬智哉は、念願だったSF小説アルカディアの翼』のテレビアニメ化に着手する。
しかし業界の抱える「課題」が次々と浮き彫りとなり、波乱の状況下、窮地に追い込まれる。
一方、フリーアニメーターの文月隼人は、ある理由から波紋を広げる “前代未聞のアニメ”への参加を決意するが……。

アニメに懸ける男たちの人生が交差するとき、【逆転のシナリオ】が始動する!

出典:https://www.kadokawa.co.jp/product/321804000674/

 

 

感想

 アニメ制作が題材ということで、巻末の取材協力に聞いたことのあるお名前がチラホラあったり、参考文献に花村ヤソ『アニメタ!』やアニメ『SHIROBAKO』があったり。

 序盤の入れ子構造なんかは感心して、中盤くらいまではグイグイ読み進められたんですが、読み切ってみるといまいち盛り上がりきらなかったな、という印象。作中作から始まる導入は予想の範囲内だったんですが、視点の入れ子構造とか、その種明かしとかは予想外で、物語の牽引する要素になっていたと思います。ストーリーの方も、取材された内容がよく反映されているようで、ある程度リアリティーを感じられる描写になっており、いわゆる「お仕事モノ」「業界モノ」としての面白さはしっかりしていたと思います。もちろん、業界人が読めばツッコミどころはたくさんあるんでしょうが……。繰り返し強調されているアニメ作りが人脈と義理に依るところが大きいっていうのは、実際にSNSでの業界人の発言なんかを見ていても感じていたところで、特に納得感がありました。

 一方で、ストーリー自体が二度にわたって挫折が続いたあとで、「さあ、これからもっと頑張ろうぜ!」みたいなところで終わってしまうので、カタルシス的な面では少し不満が残るのも事実です。やっと上手く行き始めたころにはもうページ数が足りない、みたいな。また、作中で描かれる「オタク同士の会話」が、実在の作品の台詞をしきりに擦ったり、一昔前のスラングを多用したりと、妙に古くさくてそこだけやたら浮いていたのは結構違和感がありました。文月の後輩として登場する女性アニメーターの「都合の良い女」感も気になります。中盤田舎に舞台が移ってからぱったり出てこなくなったな、と思ったら文月がUSJ行くってなった途端また出てきて妙に「良妻」感を演出してくるし、アニメーターに復帰するのかと思ったらしないし……。事情を知らないまま好き勝手言うインターネットの匿名意見を批判する主張を盛り込む一方で、不貞を働いた声優や煽り事故を起こした制作進行が登場人物によって明確に断罪されることなくなぁなぁで戻ってくるのもなんだかなぁという気持ち。

 それなりに読ませるんだけども、細かい部分がノイズになって、魅力を半減させてしまっているように感じました。