あすはひのきになろう

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デジタルリセット/秋津朗(角川ホラー文庫)【感想】

 

2022年8月31日読了。

 

あらすじ

第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作!
許すのは5回まで。次は即リセット――。理想の環境を求めるその男は、自らの基準にそぐわない人間や動物を殺しては、別の土地で新たな人生を始める「リセット」を繰り返していた。
一方、フリープログラマーの相川譲治は、シングルマザーの姉親子の失踪に気付く。姉と同居していたはずの男の行方を追うが……。
デジタル社会に警鐘を鳴らすシリアルキラーが誕生! 第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作。

出典:https://www.kadokawa.co.jp/product/322107000431/

 

 

感想

 第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作品。ちなみにこの回の大賞は新名智『虚魚』。選評ではかなりボコボコに言われてる(参考)のですが、書店員からの評価は最も高かった、ということらしい。

 確かに、選評の指摘する通り甘い点は散見されます。中でも、凄惨な殺害シーンの描写に比して、ちょっとした恋愛シーンになった途端に表現がぎこちなくなるのは力不足を感じます。あらすじにある「デジタル社会に警鐘を鳴らす」という趣旨も、「デジタル化は時代の流れだけど、それだけでは汲み取れないものがあるよね~」みたいな焦点のふわっとしたものに感じられ、いまいち要領を得ない。シリアルキラー側も殺しの手際は異常に良いにもかかわらず妙に詰めの甘いところが多く、また都合良く新たな身分を用意してくれる企業といった存在もやや強引な設定に思えます。

 一方で、時系列を前後させつつ徐々に人死にが増えていく展開や、主人公がシリアルキラーの存在に迫っていく過程にはドライブ感があり、エンタメとしての面白さは確かにあると思います。オチもB級ホラーっぽいですし、個人的にはそうした位置づけの作品としてなら、十分楽しめる作品でした。まぁ審査員が気に入らないのも何となく理解はできますが……。ただ、端正さよりもドキドキハラハラ感を優先した場合、人に勧めるなら『虚魚』よりも本作かもしれません。その点で言えば、書店員たちが本作を推したのも理解できる気がします。