あすはひのきになろう

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原因において自由な物語/五十嵐律人(講談社)【感想】

 

2023年1月13日読了。

 

あらすじ

謎を解かなければ。
私は作家なのだから。

人気作家・二階堂紡季には、
誰にも言えない秘密があった。
露呈すれば、すべてを失う。
しかし、その秘密と引き換えにしても、
書かねばならない物語に出会ってしまい――。

デビュー作『法廷遊戯』が、ミステリランキングを席捲! 注目の弁護士作家第3作!

出典:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000352022

 

 

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感想

 廃病院の屋上から転落して意識不明となったスクールロイヤーとして働く弁護士の恋人である主人公が、その謎を解くため学校でのいじめの実像に迫る。そこには彼女自身の作家としての秘密も密接に絡んでいて……みたいなお話。

 男子高校生と恋人の弁護士、二つの転落事件の真相に迫っていくんだけど、「ルックスコア」という容姿を客観的に数値化するアプリの存在がいやらしい。現実にありそうでなさそうな良い塩梅の設定でした。いじめの実態を明らかにしていくことで、物語ることの意味につなげていく展開なのですが、「原因において自由」というキーワードの概念と上手くハマった感じはいまいちしなかった物語のポジティブな側面だけを切り取っている印象があるのもバランスが悪い気がします。特に恋人の弁護士が取った物語る行為は、全部あってたからいいじゃんという結果論的にOKだっただけで、起こったことを歪曲しかねない危うさに満ちたものです。良い面ばかりを強調し、そういった点にあまり触れていないのは誠実さに欠けるような気がします。

 他のキャラはそうでもないんだけど、終盤の重要なシーンで、主人公と沙耶の会話に感情が乗っていないように感じられるのもやや残念でした。沙耶があんまりにも落ち着きすぎているというか、押し込めていた感情はあったんだろうから、もうちょっと爆発させても良かったような……。そういうキャラだと言われればそれまでですが。また、作中作で読者を転がす構成もまだ改善の余地があるように思われました。総じて、どうしても小難しさが先に立ってしまった印象は否めません。

 ただ、作者自身の守備範囲である法学の視点を用いつつ、いじめという題材に真摯に取り組もうという姿勢は感じられましたし、謎によって物語を牽引する力はしっかりあったと思います。まだまだ伸びしろのある作家さんではないでしょうか(何様?)。

 あと細かいけど、前作匂わせも本作の場合はちょっとノイズになっていたような気がする。そういう色気を出したくなる作者の気持ちもわかるけど、割とあからさまに前作と関係あるぜ感を出してたので、読んでない読者(僕は読んでたけど)的には不親切だったように思います。本筋と直接関係するわけではありませんが……。