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姫騎士様のヒモ/白金透(電撃文庫)【感想】

 

2022年2月20日読了。

 

あらすじ

悪徳の迷宮都市を舞台に、 一人の『ヒモ』とその飼い主の生き様を描く!

★第28回電撃小説大賞《大賞》受賞作★

 灰と混沌の迷宮都市『灰色の隣人(グレイ・ネイバー)』。
 数多のモンスターと財宝を孕むダンジョンの鮮烈な灯りの影には、必ず害虫が潜む。そんな掃き溜めに咲く汚れなき深紅の花が姫騎士・アルウィン。王国再興を志し秘宝を求めるダンジョン攻略の急先鋒――そして彼女に集る元冒険者・マシューは、この街に数いる害虫の一人だ。
 仕事もせず喧嘩も弱い腰抜け、もらった小遣いを酒と博打で浪費するクズ、そう人は罵る。

 ――しかし、彼の本当の姿を知る者はこの街にはいない。

「お前は俺の飼い主(おひめさま)の害になる――だから殺す」
「おい、てめぇ! ただの腰抜けじゃ……ッ!」
「内緒にしてくれよ。俺たちみたいな害虫が何をしているかなんて、彼女は知らなくていいんだ」

 ――彼は自らの手を汚すことを厭わない。

「マシュー、お前は私にとって大切な命綱だ」
「君が必要とする限り、俺はこの手を離さない。言っただろ。俺は君の『ヒモ』だって」

 ――全ては姫騎士様のために。

 選考会騒然! エンタメノベルの新境地をこじ開ける、衝撃の異世界ノワール

出典:https://dengekibunko.jp/product/himekishisamanohimo/322110000035.html

 

 

第28回電撃小説大賞《大賞》受賞作品。受賞時の選評はこちら

 

感想

 個人的に好みとズレるところがあったという点を措いたとしても、今後跳ねそうかと言われると疑問です。

 ノワールもの、と呼ばれる作品を恐らく読んだことがないので、そうした側面からの評価は難しいのですが、ダークヒーローものともまた違った、自らの手を汚すことをいとわないだけでなく、ヒロインのためならヒロイン自身をも欺く主人公は、一定の魅力を感じます。特に第五章ラストの行為は明確に一線を超えたという感触があり、印象的なシーンでした。ヒモを「命綱」に喩えるレトリックも良かった。

 一方で、エンジンが掛かるのが非常に遅く、どこに作品の盛り上がりを持ってきたいのかが曖昧で、小エピソードで区切られていることもあって物語全体の牽引力が弱いと感じました。「何故ヒモをしているのか」「何故姫騎士と一緒にいるのか」といった謎はありますが、その答えが明かされたところで特段盛り上がるというわけでもなく、もう少し緩急が欲しい気がします。ファンタジー世界が舞台の割には、やたら中指を立ててみたり、英語のスラングが多用されたりと現実世界の文化とごちゃまぜにされている細部の詰めの甘さも気になりました。

 構成や文章は大賞を取るだけの地力があると思いますが、突き抜けた面白さは感じられませんでした。基本的に読んでいて楽しい作品が好みなので、そもそも作品自体との相性が悪かったというのもあるにせよ、それをひっくり返すだけの魅力はなかったかな、というのが正直なところです。とはいえ、この作風がどこまでラノベの読者層に受けるのか、というのは気になるところです。