あすはひのきになろう

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鬼人幻燈抄 葛野編 水泡の日々/中西モトオ(双葉社)【感想】

 

2022年9月2日読了。

 

あらすじ

江戸時代、山間の集落葛野には「いつきひめ」と呼ばれる巫女がいた。よそ者ながら巫女の護衛役を務める青年・甚太は、討伐に赴いた森で、遥か未来を語る不思議な鬼に出会う――江戸から平成へ。刀を振るう意味を問い続けながら途方もない時間を旅する鬼人を描いた、和風ファンタジー巨編の第一巻。
「何度読んでも号泣必至」「人生観が変わった」と絶賛の嵐だったWEB小説シリーズが、待望の書籍化! 全編改稿のうえ、書籍版番外編も収録。

出典:https://www.futabasha.co.jp/book/97845752418530000000?type=1

 

 

感想

 1冊まるごとプロローグみたいなタイプの作品。本作を皮切りに、江戸から平成にかけて主人公の辿る道を描くらしい。ちなみに2022年9月時点の最新10巻で大正時代なので、まだまだ先は長そう。

 鬼を切る主人公で妹が鬼、と聞くと全国民が恐らくある作品を思い浮かべるでしょうが、実は2015年からWebで連載されており、2016年から連載が始まった某漫画よりも先輩に当たるようです。

 今巻は悲劇の物語としての側面が強く、主人公がいかにして旅に出ることになるか、また遠い未来で何を為さなければならないのかといった経緯が語られます。登場人物それぞれの思いがすれ違い、またそこに鬼の意図が絡んで悲劇が起こるのですが、本を正せば息子を贔屓した村の長が悪いんだよなぁ、という。色々作中でフォローされて良い人みたいな感じになってたけど、失点がデカすぎるだろというのは確認しておきたくなってしまいました。妹もあんだけ入れ込んでいた兄に見切りを付けるが割と早いのもちょっと気になる。愛情が憎悪に裏返る、というのは理解できますが、手のひら返しがあっさりすぎるような気がして、もうちょっと説得的な会話とか間とか……と思ったり。

 主人公、ヒロイン、妹、鬼など登場人物それぞれが自分の意志を為したうえで起こった悲劇、みたいなのがポイントになるんでしょうが、物語自体は類型的で、ことあるごとに幸福な日々を強調することで後半の悲劇を際立たせる演出もちょっと鼻白むところがあります。これから170年掛けて次の戦いまで自分探しをするという主人公像はなかなか面白いし、主人公自身の素朴で飾らない雰囲気も悪くないのですが、これから10巻20巻とついて行けそうな作品かと問われると頷きづらく、正直さっさとオチを見せてくれという気持ちも……。