あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

おさがしの本は/門井慶喜(光文社)【感想】

 

2021年11月8日読了。

 

あらすじ

和久山隆彦の職場は図書館のレファレンス・カウンター。利用者の依頼で本を探し出すのが仕事だ。だが、行政や利用者への不満から、無力感に苛まれる日々を送っていた。ある日、財政難による図書館廃止が噂され、和久山の心に仕事への情熱が再びわき上がってくる……。様々な本を探索するうちに、その豊かな世界に改めて気づいた青年が再生していく連作短編集。

出典:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334763220

 

 

感想

 堅物図書館職員が主人公の連作短編集。前半二編「図書館ではお静かに」「赤い富士山」は図書館ものでお約束のレファレンスの話。三編目「図書館滅ぶべし」で図書館廃止論者の人物が着任し、後半二編「ハヤカワの本」「最後の仕事」が彼と交流しつつ対抗するお話、といった感じです。

 一編目はどうも主人公の接客態度が印象悪かったんですが、一編目の件を受けてか以降はそれほど引っかかることなく、さらっと読み終えられました。特別印象的なところはありませんが、時折、良い意味で引っかかる文章もしばしば。最終話における主人公の図書館廃止論に対抗するロジックは、向こうの行政サービスの価値を比較する振る舞いを逆手にとって攻撃した感じがあって、前提なしにそれ単体で説得力があるとみるかは微妙なところ。マジレスすると、こうやって大々的に図書館の予算を減らそうとするより、毎年じわじわ減らしてった方が目立たずかえって効率的な気がしますよ、とか。

 個人的には、終盤の唐突な恋愛要素は別に要らないと思ったし、それなら主人公が現場にとどまるのではなく、市政の裏から図書館を支えようと決断するに至った考えをより丁寧に描写して欲しかった感があります。まぁ委員会での演説がきっかけ、と捉えるのが正着でしょうが……。