紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪/歌田年(宝島社)【感想】
2022年10月17日読了。
あらすじ
『このミステリーがすごい!』大賞 大賞受賞作&
読書メーター「読みたい本ランキング」单行本部門
月間(2020年1月6日~2020年2月5日)第1位
『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』に続く、
紙の蘊蓄(うんちく)が楽しめる連作短編集!
フィギュア造形の蘊蓄で野良猫虐待事件を解決し、印刷の知識で父を喪った少年の心を開く。さらに凶器が消えた殺人事件の謎を、コスプレの技術で暴く!?
どんな紙でも見分けられる男・渡部(わたべ)の紙鑑定事務所には今日も、紙にまつわる一風変わった依頼が舞い込む。
紙粘土のようなものをぶつけられて怪我をした野良猫たち。漫画の単行本を「不良品だ」と言って、心を閉ざす少年。そして、凶器が消えた奇妙な殺人事件――。
プラモデル造形家・土生井(はぶい)やフィギュア作家・團(だん)の知識を借りながら、渡部は複雑な謎を解決していくが……。
紙・フィギュア・アメコミ・印刷・コスプレなどさまざまな分野の蘊蓄を詰め込んだ、全三作の連作短編集!
感想
紙鑑定士という珍しい職業の人が主人公の短編連作ミステリ。1作目はジオラマの蘊蓄がメインでしたが、今回はフィギュアやコスプレの話がメインに。というか意外と紙の話をしていない……?
結構作者が自分の興味の赴くままに書き散らしているようで、あまり洗練されてはいない印象なのですが、むしろその点が趣味人が自由に書いているように感じられ、個人的にはかえって良かったです。収録作の中では、2本目の「誰が為の英雄」が出色の出来だったかと思います。3作品の中で最も紙鑑定士の知識と人脈が存分に発揮されていたほか、母子家庭という共通点から、主人公の子ども時代に依頼者の子どもの思いが重ねられ、同じ境遇を持った主人公だからこそできた対話にも感じ入るところがありました。こうした印刷ネタは、染谷みのるの漫画『刷ったもんだ!』を想起させますね。