あすはひのきになろう

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この△ラブコメは幸せになる義務がある。/榛名千紘(電撃文庫)【感想】

 

2022年12月12日読了。

 

あらすじ

ブコメ史上最も幸せな三角関係! これが三角関係ラブコメの到達点!

「なんであんたが麗良に好かれるのよ!?」
 平凡な高校生・矢代天馬は偶然にも、同じクラスのクール系美少女・皇凛華が彼女の幼馴染の清楚系美少女・椿木麗良を溺愛していることを知ってしまう。
 そこから天馬は、凛華が麗良と仲良くなれるよう協力することになるのだが──。
「矢代君が凛華ちゃんと付き合ってないなら、私が彼女に立候補しちゃおうかな?」
「矢代、あんたなにしたの!?」
 その麗良は天馬のことが好きになり、学園の美少女二人との三角関係へ発展!
 複雑に絡まったこの恋の行方は……!?
 電撃小説大賞《金賞》受賞! ラブコメ史上、最も幸せな三角関係が始まる!

出典:https://dengekibunko.jp/product/sankaku_lovecomedy/322110000032.html

 

 

第28回電撃小説大賞《金賞》受賞作品。受賞時のタイトルは『百合少女は幸せになる義務があります』、名義は「神奈士郎」。受賞時の選評はこちら

 

感想

 実は本作、受賞時ちょっとした炎上騒ぎを起こしていました。タイトルに「百合」とあるにもかかわらず、男性との恋愛を想起させるあらすじだったこと*1、「百合」作品として受容されてきた介錯神無月の巫女』を彷彿とさせる登場人物名やペンネームだったことなどを理由に、百合好きの間で批判が巻き起こり、後者に関しては編集部が介錯に説明し了解を得たことを発表するまでに至りました。

 こうした諸々を踏まえたうえで読んだのですが、結果「タイトルに『百合少女』と入れたくなる気持ちは分かるが、このストーリーでそれをタイトルに入れてしまえるのは商業的センスが致命的に欠ける」と感じました。選評でも散々言われてるけどね。

 お話としては、クラスのクール系美少女が幼馴染のおっとり系美少女に恋愛感情を抱いているとひょんなことから知ってしまった主人公が、クール系美少女に協力するが、主人公の方がおっとり系美少女に惚れられちゃったっぽくて……!?みたいな感じ。女性から女性に矢印が向いていることに目新しさはありますが、基本的には『とらドラ!』とか『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!』みたいな恋愛協力ものの構造をアレンジしているに過ぎません。ただ、女性側が惚れる理由や主人公が協力する理由が、キャラクターの背景として説得的に描かれているのは好感が持てます。クール系の方がどうしてもメインになってしまう構成上、そちらのギャップから来る可愛さ、主人公とのやりとりの小気味よさは伝わってきたのですが、現状おっとり系の方が非常に紋切り型のキャラクターに見えてしまっているのはやや懸念です。男嫌いだから同姓を好きになったけど、主人公は良い奴だったから好きになっちゃった、みたいな展開は「同性愛を踏み台にした異性愛規範の称揚」と受け取られかねない危険性を感じます。また、終盤の主人公の見せ場も、そこまで前時代的な教師が令和にいるのか……?という疑問を覚えます。

 と、端々に危うさを感じた一方で、個人的にはかなり楽しく読めました。百合好きは外から見た限りとても排他的で、百合(を称する)作品に男性が登場することを強く嫌悪するのですが、本来同性愛と異性愛がフラットに扱われるのであれば、あるキャラクターが同性愛から異性愛へ移行しようが、その逆だろうが別に叩かれるいわれはないと思うんですよね。それよりも、その移行の過程をいかに説得的に描けるかが焦点になるべきだと思うので、ヒロインが幼馴染と主人公、どちらへの想いを最終的に選び取るのか、そこを楽しみに続きも読みたいと思います。

*1:投稿時のあらすじは公式HPではもう見れないっぽいが、Twitterとかで検索すれば普通に画像等で出てくるはず