あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

死物語 上/下/西尾維新(講談社BOX)【感想】

 

上巻 2021年11月1日読了。

下巻 2021年11月2日読了。

 

あらすじ

“儂が見るうぬの有様は、いつでも死に様ばかりじゃ”

デストピアヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターに会うため、
故国『アセロラ王国(仮)』を目指す忍野忍阿良々木暦
人間社会が異常事態に陥った中、
怪異にのみ感染するウイルスが吸血鬼を死に至らしめていて――?
これぞ現代の怪異 怪異 怪異!

青春は、きみの隣で生きてこそ。

出典:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000354347


“おやすみなさい。いい夜と、いい夢を”

専門家の見習いとして、
斧乃木余接貝木泥舟と共に西表島へ向かう千石撫子
敵は蛇遣い・洗人迂路子――すべての元凶にして、臥煙伊豆湖の実の娘である。
撫子が挑む“死闘”の結末は――?
これぞ現代の怪異 怪異 怪異!

ありがとう。また遭う日までが、青春だ。

出典:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000354408

 

 

感想

 阿良々木暦の大学生活を描くモンスターシーズン完結編。上下巻と言っても、内容は全く別物なので、感想も分けるのが適切かもしれませんが、それも面倒なので一括で。

 上巻は何とこの世界でコロナ禍が描かれます。コロナ禍を反映した創作物を腰据えて目にしたのは、自分は多分これが初めてですね。正直、本の中でまでコロナの話されるのは気が滅入らなくもなかったですが*1、5年後、10年後に本作を読む人もいることを考えれば、一概に今の気分だけでとやかく言うのもなんか違う気がしますね。オリパラとかもう既に過去の話になってますし。

 で、お話としては不死の吸血鬼のみを殺すウイルス(?)が流行ってて、それに感染した「決死にして必死にして万死の吸血鬼」デストピアヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターに阿良々木くんと忍が会いに行きます。んー、いつもの軽妙な語り口ではあるんですが、めちゃくちゃ面白かった!とはなりませんでした。これはオフシーズンくらいからずっとですけど。このスタイルに慣れきって新鮮さを感じなくなった僕の側の問題か、それとも作者の切れ味がホントに落ちてるのかはわかりませんが、会話がひどくまどろっこしく感じることがしばしば。自分でもそこが合わないんだったらもう西尾維新読むのやめろや、と思うんですが、キャラは好きだし、なんだかんだずっと読んでるんで雰囲気そのものには結構愛着あるんですよ。だけど、もし今から物語シリーズ読むぜ!って人がいてもまずモンスターシーズンまでは薦めない。化・傷・偽くらいかなぁ、自信持って薦めるのは……。種明かしパートも冗長な感じがするし、オチも初期ほどのインパクトや余韻がない。後日談はコロナ禍を絡めたせいかどこか投げやりで、もしこれが阿良々木暦の物語のラストだとすればちょっと寂しい。ひたぎや羽川に至っては顔すら出さなかったし……。作者的にはもうやりたくないのかも知れないけど、昔みたいにヒロインとの小粋なトークでケラケラ笑わせてくれるような話が見たいなぁ、とか。

 下巻は打って変わって千石撫子のお話。こっちはコロナは出てきません*2。洗人迂路子の本拠地・西表島に向かう撫子・貝木・余接の3人が乗る飛行機が墜落、撫子は素っ裸で無人島に漂着して……みたいな話。なんだけど、この撫子が無人島でサバイバルする1人語りが延々と続いて、なかなかこれが面白くない。正直結構しんどかった。けど、そこが終わって、斧乃木ちゃんと再会、迂路子と対面のあたりは良かった。斧乃木ちゃんの復活にしても、迂路子の正体にしても、上巻のそれより論理展開にスッと納得できたし、迂路子と撫子の語りから見えてくる価値観みたいなのも悪くなかった。

「いい子じゃなければ人助けをしちゃいけないわけじゃないし、いい子しか助けちゃ駄目なわけでもない――むしろ、悪い子が悪い子を助けるほうが、手応えがあって、絵になるって思わない?」(p.213)

「救う価値があるから救われるんだなんて思わないで。助けてくれてありがとうなんて言わないでいい――こんなの、仕事すきでやってるだけだから」(同上)

 最後らへんは、なんか作者の言う「100%趣味で書かれた云々」を思い出したり出さなかったり。過去と比べられて云々ってのも、作者自身と重なる部分もある気がする。モンスターシーズンそのものの蛇足感を、蛇である撫子に回収させてる*3のも自虐的というか何というか。まぁなんだかんだ言っても物語シリーズが好きなことに変わりはないし、一つ区切りの付いたこのタイミングでちょっと間を置いて、気が向いたときにまた続き書いてもらえたら良いかな、と思います。

蛇の道を歩む足を、描き続けましょう。(p.229)

 

*1:斧乃木ちゃんも言及してたけど

*2:斧乃木ちゃんが匂わせはするけど

*3:というか自分でほぼ言ってる