あすはひのきになろう

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スパイ教室01 《花園》のリリィ/竹町(富士見ファンタジア文庫)【感想】

 

2022年1月5日読了。

 

あらすじ

世界最強のスパイによる、世界最高の騙しあい!

陽炎パレス・共同生活のルール。一つ 七人で協力して生活すること。一つ 外出時は本気で遊ぶこと。一つ あらゆる手段でもって僕を倒すこと。――各国がスパイによる“影の戦争“を繰り広げる世界。任務成功率100%、しかし性格に難ありの凄腕スパイ・クラウスは、死亡率九割を超える『不可能任務』に挑む機関―灯―を創設する。しかし、選出されたメンバーは実践経験のない7人の少女たち。毒殺、トラップ、色仕掛け――任務達成のため、少女たちに残された唯一の手段は、クラウスに騙しあいで打ち勝つことだった!? 世界最強のスパイによる、世界最高の騙しあい! 第32回ファンタジア大賞《大賞》受賞の痛快スパイファンタジー

出典:https://fantasiabunko.jp/product/202001spy/321909000804.html

 

 

第32回ファンタジア大賞《大賞》受賞作品。受賞時のタイトルは『スパイは甘く誘惑される。学校全員の美少女から』。選考評は以下の通り。

葵せきな
設定からしてもう面白いです。スパイ学校という舞台で、ヒロインたちを「食えない」タイプにしたことで、甘々になりすぎないラインを保っており、この作品ならではの面白さがしっかり担保できています。主人公と3人のヒロインの関係性も、それぞれのエピソードに起承転結がしっかりしている印象を受けました。ヒロインたちが、ただの「エロ」や「露出」で押してくるのでなく、色々な方法で「色仕掛け」をしてくるのは新しい面白さだと思います。

石踏一榮
まず一言、本当に面白かったです。スパイ学校の設定と、退学問題を絡めて主人公が女子校で一ヶ月過ごすという展開がすごく噛み合っています。キャラクターもすべてが魅力的で、主人公の存在感、ヒロインたちの魅力、すべてがよくできています。世界観やキャラクターがイラスト映えしそうだという点もあり、本になるのが非常に楽しみです。いつの時代に出しても高い評価を受けること間違いなしの受賞作だと思いました。今回の《大賞》作です。

橘公司
とにかく舞台設定が秀逸。読み始めてすぐ面白いと思えるのは大きな強みかと思います。キャラクターも皆一癖あって、主人公とヒロインたちの罠の仕掛け合いも非常に面白かったです。「誘いは断らないけど、対策は取っておく」という主人公のスタンスも非常にいいですね。物語が盛り上がっていく後半に向けての仕込みも上手く、全体を通してワクワク感に溢れていました。多少の粗はあるものの、それを補って余りあるパワーを感じたので、今回の最高得点をつけさせていただきました。

ファンタジア文庫編集長
シリアスとコメディのバランスがすごく難しいジャンルだと思うのですが、絶妙なバランス感覚で物語を紡ぐことができる、作者の高い筆力を感じました。主人公の存在感を見せつつ、それぞれのヒロインにも見せ場をつくるなど、登場するキャラクターについても、作者の強いこだわりを感じます。オリジナリティや同時代性に溢れた、次なる《大賞》作品として世に出すべきタイトルだと思います。

出典:https://www.fantasiataisho.com/contest/fantasia32th.php

実は、受賞時とあらすじが結構がっつり変わっています。受賞時はこんな感じ。

“男子”スパイ養成学校に通うアンリ=ミザエルは、常に優秀な成績を収めてきたが、とある理由により落第の危機に瀕してしまう。退学回避の条件として突きつけられたのは、渡された1000ポイントが奪われて0にならないように“女子”スパイ養成学校で一ヶ月過ごすこと。逆にスパイ少女には、アンリからポイントを得ると、学内での好成績が保証される! スパイ少女たちは誘惑でアンリを油断させて毒を盛ったり、えっちぃ写真をポイントで売ろうとしたり、決闘を挑んだりと、あらゆる手で迫ってくるが——「言ったはずだ。1ポイントたりとも奪わせない」と、アンリは圧倒的なスパイ技術で魔の手に対抗する! 甘い誘惑を退け女子たちを攻略する、スパイアクション!

出典:https://www.fantasiataisho.com/contest/fantasia32th.php

 

感想

 タイトルを初めて見たときは、『SPY×FAMILY』のラノベ版か?と思いましたが、蓋を開ければどちらかというと『暗殺教室』の方に近い。教え下手だが能力の高いスパイが、落ちこぼれスパイ見習たちにあらゆる手段で自分を降参させろ、と訓練します。最強のスパイさん、教え下手なのも相まって、強い強い言われてるし、実際色々な芸当を披露してはくれるんですが、いまいち優秀さの描写に説得力を感じない。これは見習い少女たちもそうで、中盤の描写を見ても、どうも終盤あそこまで敵と渡り合えるほど成長するようには感じられない。先は読みやすいものの王道的なストーリーやコミカルなノリ、決め台詞を多用するフレーバーの付け方は嫌いではないのですが、展開に説得力を持たせられていないため、盛り上がるべきところで盛り上がりきれず、ストーリーまでも陳腐に見えてしまっていると感じました。

 恐らく一番肝になるであろうギミック、口絵イラストと相性悪すぎん? これ違和感覚えない人いないでしょ。その上で騙す、という意図なのかもしれませんが……。途中から口絵を見返しながら「なんだこれ」って思いながら読んでいたので、終盤でババーンと種が明かされても、気持ち良く騙されたというよりは「なんじゃそりゃ」みたいな気持ちが先に立ってしまいました。ギミックを成り立たせるためか、少女たちの人数が多い割にしっかりした描写があるのが二人くらいしかおらず、かつ名前を隠して○○(髪の毛の色)色の少女、みたいな書かれ方をしているので、(口調で何とか区別を付けさせようという努力は垣間見えますが)何人の少女はどんなキャラかもよくわからず、キャラクター小説としても厳しい評価をせざるを得ません。こういうギミックを上手く成立させるには筆力が全く追いつけてないと感じます。口絵にあるコードネームもリリィ以外ほぼ口にしないし……意味なくないか? せっかくたくさん女の子のキャラを出しているのに、非常にもったいなく感じます。

 続刊に強く依存する形の作りで、現にある程度人気を得て続きが出ているので構わないとは思いますが、1巻のみではあまり満足いく出来とは言えませんでした。