あすはひのきになろう

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見上げるには近すぎる、離れてくれない高瀬さん/神田暁一郎(GA文庫)【感想】

 

2023年1月19日読了。

 

あらすじ

身長差20センチ――だけど距離感0センチ

「自分より身長の低い男子は無理」
低身長を理由に、好きだった女の子からフラれてしまった下野水希。
すっかり自信を失い、性格もひねくれてしまった水希だが、そんな彼になぜかかまってくる女子がいた。
高瀬菜央。誰にでも優しくて、クラスの人気者で――おまけに高身長。傍にいるだけで劣等感を感じる存在。
でも、大人びてる癖にぬいぐるみに名前つけたり、距離感考えずにくっついてきたりと妙にあどけない。
離れてほしいはずなのに。見上げる彼女の素顔はなんだかやけに近く感じて。
正反対な二人が織りなす青春ラブコメディ。身長差20センチ――だけど距離感0センチ。

出典:https://ga.sbcr.jp/product/9784815616304/

 

 

感想

 まぁ大体タイトルとあらすじでわかるとおりのラブコメです。本作は書き下ろしなものの、Web発ラブコメにありがちなかなり短めな話をたたみかけてくるタイプの作品で、序盤は身長差をいかしたシチュエーションラブコメ的なエピソードが続き、後半でちょっとしたすれ違いからの仲直り、という正直あんまりひねりのない構成です。

 シチュエーションラブコメパートは、この手の作品が特にラブコメ漫画ではあふれていることもあり、「最初からコミカライズ狙いか……?」と思うくらい流行りのラブコメ漫画に乗っただけ感がありましたが(そもそも身長差が映えるのは文章よりもイラストでしょ)、それでも『ただ制服を着てるだけ』でデビューした作者らしく、細かいところに光る部分もあったかと思います。例えば舞台を中学校にすることで登場人物に幼さを残したり、NBA選手の名前を出して主人公のディテールや現実との地続き感を演出したりといった工夫は良かったと思います。

 チビだから、なのが問題じゃない。

 チビであることの不利を、受け入れられない心の弱さが問題なのだ。(p.200)

 かなりマッチョな考え方ではありますが、この問題意識の整理の仕方も鮮やかでした。一方で、この手の作品は漫画・ラノベ問わず大量に供給されており、その中でこうした細かい良さは十分に顧みられない現状では、凡百の作品の中に埋もれてしまいそうな印象は拭えず、デビュー作で見せた強みをいかしきれていないようにも見受けられます。光る点はあるものの、量産型ラブコメの中で飛び抜けた強みを持った作品とは言い難いと感じました。大量生産大量消費を前提とした数多の量産型ラブコメのなかの一つ、という位置づけで終わらせるならそれでも良いのかもしれませんが、作者の力量を考えると、それで終わるにはちょっともったいないと思います。

 本作の中学校という設定や身長差という題材、語り口なんかからは、高校生以上をターゲットとするよりも、むしろ登場人物と同じ中学生や小学生のような子ども向けのレーベルの方が伸びるのではないかという気もします。デビュー作でも書きましたが、ラノベにこだわることなく、作者さんには様々な可能性に挑戦してみて欲しいと思っています。