あすはひのきになろう

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Ank: a mirroring ape/佐藤究(講談社)【感想】

 

2021年12月31日読了。

 

あらすじ

2026年、多数の死者を出した京都暴動(キョート・ライオット)。ウィルス、病原菌、化学物質、テロ攻撃の可能性もない。人類が初めてまみえる災厄はなぜ起こったのか。発端はたった一頭の類人猿、東アフリカからきた「アンク(鏡)」という名のチンパンジーだった。一人の霊長類研究者が壮大すぎる謎に立ち向かう。乱歩賞『QJKJQ』で衝撃の”デビュー”を果たした著者による、世界レベルの超絶エンターテインメント!


2026年、多数の死者を出した京都暴動(キョート・ライオット)。
ウィルス、病原菌、化学物質が原因ではない。そしてテロ攻撃の可能性もない。
人類が初めてまみえる災厄は、なぜ起こったのか。
発端はたった一頭の類人猿(エイプ)、東アフリカからきた「アンク(鏡)」という名のチンパンジーだった。

AI研究から転身した世界的天才ダニエル・キュイが創設した霊長類研究施設「京都ムーンウォッチャーズ・プロジェクト」、通称KMWP。
センター長を務める鈴木望にとって、霊長類研究とは、なぜ唯一人間だけが言語や意識を獲得できたのか、ひいては、どうやって我々が生まれたのかを知るためのものだった。
災厄を引き起こした「アンク」にその鍵をみた望は、最悪の状況下、たった一人渦中に身を投じる――。

江戸川乱歩賞QJKJQ』で衝撃の”デビュー”を果たした著者による、戦慄の受賞第一作!
我々はどこから来て、どこへ行くのか――。人類史の驚異の旅(オデッセイ)へと誘う、世界レベルの超絶エンターテインメント!!

出典:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000190442

 

 

  第20回大藪春彦賞、第39回吉川英治文学新人賞受賞作。後者の選評はこちら

 

感想

 暴力!!って感じの小説でした。京都を舞台に、研究中のチンパンジーが逃げ出したことで巻き起こる人々の狂乱と暴力を描きます。

 序盤は正直読み進めるのに少し時間がかかりました。細かく時系列と登場人物の視点が切り替わるのがややストレスに感じられ、肝心の暴動が起こるまでの牽引力にはいささか欠ける印象がありました。いよいよ暴動が始まってからは、京都という古都が血と暴力で汚されるという背徳的な興奮も相まって、ぐいぐい読み進められました。男女と子ども、というスリーマンセルで行動するパートに入ると、古典的なパニックものっぽくなるかと思いましたが、意外とそういう流れにはならなかったですね。

 暴動に至るまでのSF的な説明も「鏡」と「自己認識」というテーマが一貫されて興味深く、取材に基づく事実と作者による創作を上手く一体化させていると感じる一方で、かなり情緒的なアナロジーに基づく説明が目立ち、美しくまとめあげ過ぎている気もしました。結構面白かったのですが、登場人物の過去や人工知能〈ルイ〉といった一部の要素がいまいちきちんと物語の中で回収しきれているように思えなくて、ちょっとしっくりきていない部分があることも確かです。