あすはひのきになろう

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きのうの春で、君を待つ【感想】

 

2021年8月29日読了。

 

あらすじ

幼馴染だった二人、すれ違う時間と感情。
17歳の春休み。
東京での暮らしに嫌気が差した船見カナエは、かつて住んでいた離島・袖島に家出する。そこで幼馴染である保科あかりと2年ぶりの再会を果たした。

その日の夕方、カナエは不可思議な現象に巻き込まれる。
午後6時を告げるチャイム『グリーンスリーブス』が島内に鳴り渡るなか、突然、カナエの意識は4日後に飛んだ。混乱の最中、カナエは憧れの存在だったあかりの兄、保科彰人が亡くなったことを知らされる。
空白の4日間に何が起きたのか。困惑するカナエを導いたのは、あかりだった。

「カナエくんはこれから1日ずつ時間を遡って、空白の4日間を埋めていくの。この現象を『ロールバック』って呼んでる」
「……あかりはどうしてそれを知っているんだ」
「全部、過去のカナエくんが教えてくれたからだよ」

ロールバック』の仕組みを理解したカナエは、それを利用して彰人を救おうと考える。
遡る日々のなかで、カナエはあかりとの距離を縮めていくのだが……。

甘くて苦い、ふたりの春が始まる。

大きな感動を呼んだ、『夏へのトンネル、さよならの出口』に続き、八目迷×くっかで贈る、幼馴染だった少年少女の春と恋の物語。

出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09451842

 

 

感想

 『夏へのトンネル、さよならの出口』で鮮烈なデビューを飾った作者による2作目。作風としてはメディアワークス文庫的なライト文芸寄りの印象。全体として非常に上手くまとまっています。1日進んで2日戻るっていうタイムリープも一捻り効いてるし、それを活かして主人公自身の過去の振る舞いの謎(っていうほど大したものでもないけど)が開示されていくのも面白いし、主人公視点だと時系列を遡るにつれて主人公がヒロインに対する思いを強めていくのも面白い。もっと正確に言うと、「見とれてた」というかどうかのシーンみたいな、ヒロインから見たときの過去の主人公の振る舞いとのギャップにヒロインが気づくことを読者として読むのが楽しかった(ややこしい)。過去のエピソードやちょっと浮いてるなと思ったシーンをきちんと伏線として使っていく点からは地力の高さを窺われます。一方で、前作と比較すると全体的にやや見劣りしてしまう感は否めません。具体的にどこが、と指摘するのは難しいですが……。また、個人的にはヒロイン像が不幸に寄せすぎているかなぁ、と。そりゃ同情するしかないじゃん、と思っちゃうし、となると悪役となる兄貴の処遇に違和感が残ります。とはいえ、手堅くまとまっていることに間違いはありません。追うに値する作者だと思います。