あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

Vのガワの裏ガワ1/黒鍵繭(MF文庫J)【感想】

 

2023年2月日読了。

 

あらすじ

「私のママになってくれませんか?」


プロの高校生イラストレーターとして活躍する千景。そんな彼はある日、誰もが近づきがたいほどに完成された美しさを持つ孤高の少女・果澪から「ママになってくれないかな?」とお願いされる。
この場合の「ママ」と言えばVTuberのキャラクターデザイン――悩む千景に、果澪は突如脱ぎ出し、きわどい水着姿で迫り……!?
果澪の熱意を受け止めた千景は、同じく高校生イラストレーターの桐紗、自堕落な隣人にして大人気個人VTuberの仁愛を仲間にし、VTuber「雫凪ミオ」プロジェクトを発足。全員で果澪を人気VTuberにするべく、動き出す。
VTuberになりたい女子高生と、クリエイター&ストリーマーたちで送る青春ラブコメディ開幕!

出典:https://mfbunkoj.jp/product/vnoura/322207001280.html

 

 

第18回MF文庫Jライトノベル新人賞《佳作》受賞作品。受賞時のペンネームは古宿ウェリバ。審査員の榎宮祐によるコメントは以下の通り。

 これまた“未完成品”の作品で、評価に困る作品でした……
 審査会では題材が今風とかその他語られましたが、僕は正直そんなことはどうでもいいと思っていて、ラストのどんでん返しが全てだと思ってます――が、これを調理しきれていません。
 この作品はラストの展開が全てでしょう。「心を殺してここまで努力したのにそれでも主人公を裏切りきれず葛藤して涙するヒロイン、ゲスだけどかわいそかわいい」って読者に思わせることが出来たら勝ちでしょう。泣き叫ばせましょうよ。もっとキャラを振り切らせましょうよ。

出典:https://mfbunkoj.jp/rookie/award/result/18/

 

感想

 VTuberラノベ、じわじわ増えてきてるけど実際に読むのは初めてでした。MFはアニメ化も決まった「ぶいでん」こと『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』のレーベルでもありますし、新人賞からもVTuberを扱った作品が出てくるのは自然なのかもしれません。

 高校生人気イラストレーターの主人公が、隣の席の美少女に自分のVTuberのママ=イラストレーターになってくれと頼まれ、イラストレーター仲間(美少女)や既に人気を獲得しているVTuber(美少女)と協力して彼女をデビューさせよう!といった感じのお話。

 前半のデビューするまでの展開は『冴えカノ』を彷彿とさせる雰囲気。ヒロインが言い出しっぺでクリエイターが主人公なので構図としては逆になるんですが、仲間を引き入れつつみんなで作品(ここではVTuberですが)を作り上げる、という流れが結構似ている気がしました。キャラ同士の掛け合いもよく、この時点で割と楽しめていたのですが、ヒロインがデビューして人気になってめでたしめでたしでは終わらない。

 後半ではヒロインの生い立ちが明らかになり、何故彼女が主人公たちを巻き込んでまでVTuberになりたかったのか、なってその後どうするつもりだったのか、といった謎が明らかになっていきます。人気を獲得した後の行動がまず意表を突かれるし、そのような行為に至るまでの心情が彼女自身の家庭環境によって裏付けされているのが良かったです。自分自身から逃れたいという彼女の願いは、誰しも少しは共感するところがあるのではないでしょうか。また主人公の責任感が非常に強く、自らの発言についてとても誠実な態度で語っていたもの好印象でしたし、表紙のイラストの使い方もイラストレーターという主人公の属性をよく活かしていたと思います。

 自分の要素を強く残しつつも自分でない存在を演じるというVTuber独特のあり方を上手く物語に落とし込んだ秀逸な作品だったと思います。あとがきで題材のセンシティブさを自覚していたと語られていますが、単に流行りものに乗ろうという意図だけでなく、作者自身が題材に真摯に向き合ったことが感じ取られる作品でした。正直言って、この完成度で佳作どまりというのは過小評価にも思われます。今後の展開で審査結果を見返すような面白さを期待しています。