あすはひのきになろう

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シャガクに訊け!【感想】

 

2021年9月24日読了。

 

あらすじ

社会学部一人気のない“上庭ゼミ”に入った松岡えみるは、上庭先生の学生相談室の補佐をすることに。サークル内の友人関係に悩んでいるえみるは、学生たちの人間関係の悩みに親身に耳を傾ける。上庭先生は評判とは違い社会学の知識をもって思いもよらぬ解釈をみせ、えみるはすっかり社会学の虜になるが――⁈
コミュ障で根暗な社会心理学講師と、おひとよしで責任感の強い女子大生コンビによる、人生相談室、開幕!

出典:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334913137

 

 

 第22回ボイルドエッグズ新人賞*1受賞作品。受賞時の講評は以下の通り。

(前略)『シャガクに訊け!』は、遊びすぎて留年の危機を迎えた女子大生が、担当教官から学部一不人気のゼミに入ることを条件に進級させてやると不可解な提案をされるところから、話が始まります。そのゼミの上庭という専任講師は声が小さく、自信なさげで、やる気もなく、学生がちっとも集まりません。一方でこの講師は、学内に設けられた学生相手の悩み相談室係でもあり、女子大生は否も応もなくその手伝いをさせられることになります。こう書けばおわかりのように、女子大生はワトスン役、不人気の専任講師はいわばホームズ役で、章ごとに持ち込まれる学生の相談事に潜む問題や謎を、専任講師が名探偵のごとく解決していく(のか、どうなのか?)という趣向の小説なのです。
 この講師の繰り出す社会心理学の知識や理論が、素人のぼくなどにはすこぶる面白いのですが、それ以上に作品を魅力的にしているのが、女子大生と先生とのやりとりです。女子大生は勉強はできない代わりに、男気があるのか(笑)、理論を語るだけの講師を差し置き、問題解決に勇んでかかわろうとします。Sキャラの女子大生に、毎度やりこめられるMキャラの先生――このコンビの終始楽しいかけあいが、物語をひっぱるエンジンにも潤滑油にもなっています。
「章ごとに持ち込まれる学生の相談事」と書きましたが、作品が一話完結の連作短編形式と見せかけて、繋がりのある長編の物語になっていたことにも驚かされました。「人生相談+社会心理学+謎解きミステリ」という楽しくユニークな新ジャンル小説の誕生に出会えたことを心から喜びたいと思います。(後略)

出典:http://www.boiledeggs.com/belaward/prize22.html

 

感想

 連作短編がつながって一つの物語になるタイプの作品で、短編となる小エピソードは章題となる社会学用語に当てはまりすぎているというか、その用語を引き出すために用意されたお話、という感じが強かったんですが、大エピソードの方はなかなか面白かったです。大学生にもなって中学生みたいないじめしてる描写には呆れもしますが、事件を通して主人公が成長へ一歩を踏み出しているのは好印象でした。あくまでも一歩、というのも良いですし、いじめに加担していた友人たちもまとめて改心する、みたいな完全無欠ハッピーエンドじゃなかったのも良かった。先生の名前が上庭=ウェーバーとか幅増=ハーバマスとか、主人公がえみる=エミール・デュルケムとか、ちょっとした小ネタを潜ませているのも面白い。社会における事象に新たな視座を提供する、という社会学のイメージを掴むのにも有用だと思います。シリーズ化しても良さそうですが、今のところ続刊はなさげ。

 本編とは関係ないんですが、新人作家なのにあとがきのこなれてる感がすごい。あとがきでやたらウケを狙ったり、どうでもいい作者の自分語りしたり、ほとんど謝辞しかなかったりする作品も多いなかで、短尺の中でオチまで綺麗につけていて、当たり前ですが文章を書くのに相当慣れてるんだろうな、と思いました。

*1:主な受賞者に万城目学鴨川ホルモー』など