あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

君を失いたくない僕と、僕の幸せを願う君【感想】

 

 2020年9月15日読了。

あらすじ

私が、そうちゃんを幸せにする! だから――私を助けにきて。

「私は、そうちゃんに、幸せになってほしいの。だから、私じゃ駄目」
 高校一年の夏。ようやく自覚した恋心を告げた日、最愛の幼馴染はそう答えた。自分は3年後には植物状態になる運命だ。だから俺には自分以外の誰かと幸せになってほしいのだと。
 運命を変えるため、タイムリープというチャンスを手に入れた俺。けれど、それは失敗の度に彼女にすべての痛みの記憶が蘇るという、あまりに残酷な試練で。
 何度も苦い結末を繰り返す中、それでも諦められない切ない恋の行方は――。
 ごめんな、一陽。お前が隣にいてくれるなら、俺は何度だってお前を助けるよ。

出典:https://dengekibunko.jp/product/321907000706.html

 

 

感想

 あらすじで「私はタイムリープものです」と自己紹介してくる作品も珍しいんじゃないでしょうか。正直言ってあらすじ内容バラシすぎだと思います。タイムリープ始まるの割と中盤だし、そうなるのわかってるからヒロインの言動とかも全部「はいはい、そういうことね」みたいな感じになっちゃうし……。

 印象的なところだと、作中でキャラ達自身が本作のような「お涙頂戴系(p.32)」について言及するのが興味深かったですね。なるほどな~と思ったヒロインのセリフを引用しときます。

「人が死んじゃう映画はたくさんあるでしょ? でも、その中で導き出す答えはみんな違うから……。大切な人が亡くなって、どうして生きていくのかっていう、理由。『死んじゃった恋人が、生きてって願ったから』だったり、『今生きている、自分の家族や友達のために生きていく』だったり、『意味も理由も明言できないけど、それでも人は生きていかなきゃいけない』だったり。そういう、絶望の中でどこに希望を見出すのか、みたいなのは、観ていてすごく考えさせられるよ」(p.32-33)

  上記のメタ構造のほか、あとがきに「「泣ける物語にするためには、誰かを死なせる必要があるのだろうか」と思ったりするときもあります。」(p.322)と書かれているように、既存のいわゆる感動系の物語から抜け出そうという意欲は感じるものの、成功しているかと言われるとやや疑問です。タイムリープ前のエピソードは全体的に好きなシーンが多かったです。水鉄砲で遊ぶシーンとか、ああいう幸せな描写を丁寧に描いているからこそ後の展開が活きてくるんですよね。だからこそ、あらすじでリープのことをバラさない方が良かったと思うんですが……。ただ、肝心のタイムリープを繰り返すくだりは、確かに絶望感はあったものの、「あれ、これ『Steins;Gate』で見たぞ」と思ってしまい、新鮮味があまり感じられませんでした。

 また、タイムリープを引き起こしている存在も、きちんと伏線を張った上で明らかにはなるんですが、どうも機械仕掛けの神様っぽいと言うか、舞台装置っぽい印象が拭えませんでした。ただ、本作の主題は「絶望的な状況におかれても互いを思い続ける男女がどのような結論に至るか」にあると思うので、それを描くための手段であるタイムリープはまさしく舞台装置であり、そのような印象を受けるのは当然なのかも知れません。

 あとは細かいこと言うと二人の友達ポジで登場した変人くんはもうちょい活躍しても良かったんじゃないの、と思います。

 ここまで読み直してみると厳しい評価のようですが、誤解の無いよう強調しておくと決して面白くなかったわけではなく、ある程度物語として高い完成度だったからこそ気になった部分が自分の中で目立ってしまったのだと思います。「ハッピーエンド」に妥協しない二人の姿勢には胸を打たれるところがありましたし、前述したリープ前のシーンなどにみられる丁寧な描写からは確かな筆力が感じられました。作者の今後の作品に期待したいと思います。