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千歳くんはラムネ瓶のなか【感想】

 

千歳くんはラムネ瓶のなか (ガガガ文庫)

千歳くんはラムネ瓶のなか (ガガガ文庫)

  • 作者:裕夢
  • 発売日: 2019/06/18
  • メディア: Kindle
 

 2020年1月14日読了。

 

あらすじ

主人公は、超絶リア充
『五組の千歳朔はヤリチン糞野郎』

学校裏サイトで叩かれながらも、藤志高校のトップカーストに君臨するリア充・千歳朔。
彼のまわりには、外見も中身も優れた友人たちがいつも集まっている。

圧倒的姫オーラの正妻ポジション・柊夕湖。
努力型の後天的リア充・内田優空。
バスケ部エースの元気娘・青海陽……。

仲間たちと楽しく新クラスをスタートさせたのも束の間、朔はとある引きこもり生徒の更生を頼まれる。
これは、彼のリア充ハーレム物語か、それとも――? 


第13回ライトノベル大賞、優秀賞受賞。
新時代を告げる“リア充側"青春ラブコメ、ここに堂々開幕!!
〈 編集者からのおすすめ情報 〉
ガガガ文庫で受け継がれる「青春ラブコメ」血統、そのニューフェイスです。
ぜひご期待ください!

 出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09451796

 第13回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作品。 受賞時のタイトルは『ラムネの瓶に沈んだビー玉の月』。浅井ラボ氏による受賞時の講評がこちら。

問題作です。出版にありがちな惹句としてではなく、本当の問題作で、編集部でも評価が分かれ、私も評価を定めにくい作品でした。作中の無邪気な邪悪さと暴力性という暴投は、大きな誤解を招くと感じました。
一方で新人さんが小賢しさで「今って、こういう作風が受けるんでしょう?」と商業出版を意識しすぎると、小さくまとまります。そして最初の枠から生涯出なくなることが多いです。
算盤勘定は後でいくらでもできるので、新人さんは最初くらい全力で暴投していいし、するべきでしょう。いずれ制御が必要にしても、まず受け止める懐の深さが新人賞にだけはあっていいはずです。
暴投を単なる蛮勇で終わらせるか、慈愛とできるか、未知数さを含めて優秀賞としました。

出典:https://gagagabunko.jp/grandprix/entry13_FinalResult.html 

 

 

感想

 最初に断っておきますと、not for meな作品でした。『このライトノベルがすごい!2021』で文庫本1位を獲得したというので、以前から気になっていたこともあり読んでみたのですが、最初から最後に至るまでキャラクター・物語ともに好感を持つことができませんでした。駄作では決してないと思うので、やはり僕の感性・価値観と合わなかった、ということだと思います。従って、本作が好きという方はブラウザバックを推奨します。

 売り文句の通り、いわゆる「リア充」視点のラノベなんですが、この切り口自体は斬新で面白いと思いますし、世間での評判を見るに受けも良いようです。そもそも今の中高生を単純に「リア充」「非リア」というラベリングによって分類するのも乱暴な気がしますが、まずそれは置いときましょう。また、「主人公がめっちゃ良い奴、好感が持てる」という感想もしばしば目にします。確かに主人公は(ちょっと不自然なくらい)良い奴なんですが、個人的に違和感だったのは物語全体の流れ、他のキャラクターすべてが主人公を引き立たせるために存在しているかのように思われたことでした。例えば主人公と引きこもりの言い争い(というレベルにすら達していませんが)のところにおける引きこもりの言い分は明らかに稚拙で、そりゃ論破されるだろとしか思えません。また、ブコメを名乗る割にはラブコメ要素はおまけ程度で、ヒロインも5人くらい出ますが出番は少なく、キャラ付けも薄く、印象には残りません。「チーム千歳」に属する他の男子なんかほぼモブだったと言っても過言ではないでしょう。一番戸惑ったのは、物語の根幹となる終盤のシーン、ヒーローよろしく主人公が登場するシーンでした。今巻の中心テーマが健太の成長にあるなら、最後は彼が自力で過去のトラウマと決別をすべきだったのではないでしょうか。最後、主人公と健太が対等な友達になる、みたいな話もありましたが、今後彼らが真に対等な関係になれるかどうかは疑問です。

 ここまでに述べた点は、すべて「主人公をかっこよく描く」ことに固執するあまり生じているのではないかと思います。当然これらの点が気にならない、もしくはむしろ良いと感じる人もいるとは思いますが。

 物語の中核がオタクを垢抜けさせる、というのも好ましく思えません。似たような作品は多く、『弱キャラ友崎くん』も同様のテーマですが、こちら以上に「価値観を矯正する」という点で自己啓発臭が強く、閉口してしまいました。健太という主人公と対立する軸に芯がなく、魅力に欠けるところもそれを強めていた印象です。

 文章自体は読みやすく、新人とは思えない書き慣れている感があったのですが、主人公たちの会話が読んでいて一番辛かったです。これは本当に個人の好みだと思うので、いちゃもんつけてると言われても仕方ないんですが、「これがリア充の会話だ!」と言わんばかりの寒々しい会話がとても苦手でした。全く知らないグループの内輪ネタをそのまま見せられている感がすごかった。

 一応2巻も読んだので、また感想書いたらあげます。