あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

朝比奈さんの弁当食べたい 1/羊思尚生(HJ文庫)【感想】

 

2022年9月25日読了。

 

あらすじ

それはきっと恋ではなく、 それは間違いなく愛だった。

クラス一の美少女・朝比奈亜梨沙がある日作ってきたマズそうな弁当に、高校生・牧誠也は一目惚れした。「朝比奈さんの弁当が食べたいから付き合って欲しい」。彼のそんな告白にバカにされたと思った亜梨沙は怒って誠也をフるが、彼の諦めない純真さと、悩みに寄り添う優しさに次第に惹かれていく。しかしある時亜梨沙は、誠也の人には言えない秘密を見かけてしまい――。
二人の仲はどこへ進むのか、そして誠也が亜梨沙の弁当に惹かれる理由とは。
切なくて、苦くて、愛しくて、美しい。青春物語開幕。

出典:https://firecross.jp/hjbunko/product/1526

 

 

 HJ小説大賞2020前期受賞作品。受賞時の選評は以下の通り。

とても切なく、苦しく、美しい、多感な高校生の青春をしっかりと描き切った作品。道中の伏線もしっかりと回収していますし、キャラクターもひとりひとりしっかりと役割をもたせて最後に向けて収束させていました。真っ直ぐでありながら、自分の気持ちすら定かでない主人公たちの、心のぶつかり合いを経て成長していく様はまさに青春。なぜ、どうみても不味そうで失敗作な朝比奈さんの弁当が食べたいのか。楽しみにしていてください。

出典:https://firecross.jp/award/award15

 

感想

 タイトルから受ける気の抜けた印象とは裏腹に、切実さに満ちた作品でした。

 美人優等生の朝比奈さんの「くっっっそマズそうな弁当」を食べたいと言い告白した主人公、当然朝比奈さんは怒ってビンタしてしまい……といったところから始まるお話。

 主人公であるはずの誠也の視点は一切なく、彼の友人である創や朝比奈さんから見た彼の姿を通してストーリーが語られるため、朴訥としたつかみ所のない誠也のキャラクターも相まって「何故彼は朝比奈さんの弁当を食べたいのか?」という疑問が強く展開を牽引しています。いわゆる援助交際の描写や誠也に過剰に当たり散らす母親など、かなり重たい環境が描かれる一方で、重くなりすぎない程度にコミカルなやりとりもあり、上手くバランスを取っている。主人公の母親の描き方も重層的で、単なる虐待親として突き放すわけでも、実は良い人だった的な擁護をするわけでもなく、ありのままの距離感で描かれている点が良かったと思います。終盤では「家族」というキーワードを軸に朝比奈さんの背景と誠也の背景が重なり合い、求められた言葉を返すだけだった誠也が「愛」の象徴である弁当を自発的に作り、手渡すまでに至る。モチーフの取り扱いの巧みさと構成の美しさには目を見張るものがあります。それぞれのキャラクターが真摯に思いを通わせていく様には心動かされる物があり、大変満足感の高い良作だったと思います。

 表紙イラストも秀逸。読了後帯をめくってみることでこのイラストの真の意図がわかるようになっています。本作は是非帯付きの紙本で読んで欲しいですね。