あすはひのきになろう

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琥珀の秋、0秒の旅/八目迷(ガガガ文庫)【感想】

 

2022年9月26日読了。

 

あらすじ

世界の時間が止まるとき、二人の旅が始まる
麦野カヤトは、高校の修学旅行で北海道の函館を訪れていた。
内気で友達のいない彼にとって、クラスメイトたちとの旅行は苦痛でしかない。
それでも周りに合わせてグループ行動を続けていた、そのとき。

世界の時が止まった。

まるで神様が停止ボタンを押したみたいに、通行人も、車も、鳥も、自分以外のあらゆるものが静止した。
喧騒が消え、静寂だけが支配する街のなか、
動ける人間は麦野カヤトただ一人……かと思いきや、もう一人いた。
地元の不良少女・井熊あきら。

「あんま舐めたこと言ってたらぶっ殺すかんな」

口調も性格もキツい彼女は、麦野とは正反対のタイプ。
とはいえ、この状況では自分たち以外に動ける者がいない。やがて二人は行動を共にする。

琥珀の世界」ーー数日前に死んだ麦野の叔父が、そう呟いていたことを麦野は思い出す。
叔父の言葉は、世界の時が止まったことに関係しているかもしれない。
そう思い立った二人は、時を動かす手がかりを求めて、叔父の家がある東京を目指す。

時が止まった世界のなか、二人きりの旅が始まった。

出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09453086

 

 

感想

 時間が止まった世界で北海道から東京へ向けて旅をするボーイミーツガールもの。衝突しつつも絆を深めていく展開は王道的で手堅く、しっかり旅の描写も入るので、ロードムービー的な楽しさもある。『ミモザの告白』の作者らしい社会や常識や普通と見なされる価値観にそのまま乗っかることのできない生きづらさに対する目配りも効いている。時間停止現象の意味づけと、主人公たちが先のことを考え込まずモラトリアムに安住しようとするが故に未来に希望を持ってしまい、否応なく時間の流れに引き戻されるという、壊れることを避けようのないモラトリアムの構造が良かった。希望を持つきっかけも素朴かつ現代的で、というかもろにOmoi「君が飛び降りるのなら」を思い出しますねこれ。全体を通して、作品の空気感はとても好ましかったです。一方で、悪い意味でなく予定調和的なところがあるために、どこかあっさりしており、物足りない印象があったのも正直なところです。