あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

SICK -私のための怪物-/澱介エイド(ガガガ文庫)【感想】

 

2023年1月21日読了。

 

あらすじ

身を焦がす戦慄を力に、少女は恐怖を殺す。

「あなたを絶対に、ひとりぼっちにだけはさせないから」
少女はそう言って、幼い少年の手を取った。その約束が、いずれ最悪の形で破られてしまうとも知らずに――

〈ゾーン〉と呼ばれる精神世界に侵入できる異能を持つ叶音と逸流は、精神に巣食い恐怖症をもたらす概念生命体フォビアを殺す仕事を請け負っていた。彼女達の所に、視線恐怖症を患った少女が助けを求めにやってくる。
少女の〈ゾーン〉に潜った叶音が遭遇したのは、物語によって恐怖を育てる謎の奇術師。戦いの最中、奇術師は叶音に問いかける。
「あなたは目を背けていますね? おぞましい自分の過去から」
精神世界での激しい戦いは叶音の精神を摩り減らし、やがて彼女がひた隠しにしていた真実を暴き出していく。心が壊れ、正気を失い、戦いは絶望と恐怖にまみれた混沌の領域へと踏み込んでいく。

戦慄を力に変えて恐怖を殺す、ダーク・サイコアクション

出典:https://www.shogakukan.co.jp/digital/094530880000d0000000

 

 

第16回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作品。受賞時のタイトルは『どどめの空』。ゲスト審査員の磯光雄による講評は以下の通り。

題材が好みなのでまっさきに読んだ作品。読者を驚かせ楽しませようという情熱に溢れ、終始意外な展開に引きずり回された。荒唐無稽な登場人物の能力と同じく、作者も溢れ出るアイデアを制御しきれずに、読者の手に余る物量になっているのが惜しい所だが、ドロリとした濃密な世界観や、ビジュアルを備えたキャラクター作り、そして大掛かりなどんでん返しの意外性など、多くの将来性を感じた。今後もより一層の研鑽を期待。

 

感想

 面白かったのですが、元気がある時に読むべき作品だと思います。角川ホラー文庫から出ててもおかしくないくらいにはしっかりしたグロ描写があるので、苦手な人はそれなりに覚悟しておいた方が良い(イラストレーターがなまじ上手い分、「そこの挿絵むしろいらないんだわ~」みたいなシーンもあった)。

 人の精神世界に入れる女の子が、相棒の少年とともに人に過度な恐怖症を引き起こす存在「フォビア」をぶっ倒していくお話。主人公の方が年上なので、おねショタみもある。世界観の設定からは割と懐かしのラノベ的な雰囲気を感じるものの、今巻でテーマに据えられた「見る/見られる」という行為の扱い方は非常に現代的で、その功罪両面に言及している点も今の社会をよく観察したうえで上手く切り取っているように感じました。ラストは何か良さげな雰囲気で終わらせてますが、基本みんな不幸になってるし、主人公の抱える問題も何も解決してないしでなかなか散々な終わり方でさすがにちょっと気分が重くなった。中盤びっくりポイントがありつつも、基本的に先読みはかなり容易なんですが、大体「こうなって欲しくないなぁ」という予感が全部当たるので、なんか先読みのしやすさを逆手に取られてる感もありましたね。依頼人の女の子二人の関係性をなあなあで終わらせなかったのは確実に評価できますし、厨二的なアイテムを駆使した戦闘も悪くなかった。作者コメントで「だいぶ長いこと小説家になりたかった」と述べていますが、そのためか戦闘シーンの非常に多い作風ながら文章は臨場感があって読みやすく、残虐描写もよく筆が乗っていた印象です*1

 今巻で決着が付かない割に敵キャラが小物臭くてどうも安っぽさを感じてしまったり、その前のメガネちゃんの振るまいがエグすぎて一番引っ張ったはずの少年くんは過去に実は……のところが霞み気味だったり、みたいな気になる点もあったものの、総じて迫力のある作品でした。

*1:あとがき読んだら担当に「この描写はさすがにどうかと思う」と指摘されるところもあったっぽくて笑ってしまう