あすはひのきになろう

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その殺人、本格ミステリに仕立てます。/片岡翔(光文社)【感想】

 

2022年11月22日読了。

 

あらすじ

トリックがバレた? え、探偵役も死んだ?
ご安心を。私は名探偵の生まれ変わりです!
この場を「本格ミステリ」に仕立ててみせます!

音更風゛(おとふけぶう)は、「館」シリーズ全十作で知られるミステリ作家の一家にメイドとして就職した。だが一族は揃って不仲で、後を継ぐ兄妹間で殺人計画が持ち上がっている。風゛は殺人を止めるべく、計画を請け負った男・豺(やまいぬ)に接触し、死者を出さない「新・殺人計画」を考案。しかし計画当日、二人を嘲笑うかのように予想外の人物が殺されてしまい……。
「館」という閉鎖空間で起こる殺人事件――。本格ミステリの「王道」を逆手に取った怒濤の展開は全ミステリファン必見!

出典:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334914752

 

 

感想

 架空の名探偵の生まれ変わりを自称するとぼけた主人公・音更風゛*1が、本格ミステリ的な殺人事件をプランニングする男・豺とともにミステリ作家一族の間で起こった殺人事件の謎に挑む、というお話。

 タイトルから色んな殺人事件を本格ミステリに仕立て上げていく連作短編集的なものを勝手にイメージしていたのですが、題材となる話の枕になるものを除けば事件は基本一つの長編でした。序盤、主人公の子の不思議ちゃんっぽいキャラと言動がかなりうざったくて苦手だったのですが、豺とのコンビになってからはボケとツッコミの掛け合いになったためか多少中和されたように思います。奇妙な館とかクローズドサークルとか不仲な一族とか過去の事件との因縁とか本格ミステリにありがちな要素が詰め込まれており、謎解きも引っかかる点にはエクスキューズが用意されているし、終盤までひねりが利いていています。

 ただ、主人公のキャラは確実に人を選ぶし、トリックもパッとしないところがある。人死にが出ていてかつ本格ミステリをメタっているというコンセプトの割にはずっと軽薄な雰囲気で進んでいくのにもちょっと戸惑ってしまう。兄妹をめぐる過去の因縁がまぁまぁドロドロしてるのともギャップがある。まぁここらへんはユーモアミステリとして処理できないこともないですが、題材のキャッチーさに見劣りしてしまっている印象は否めません。読後感は悪くなく、読み味よくまとめ上げているとは思いますが、主人公のおとぼけ具合が過去の因縁に囚われた犯人や作品の雰囲気を柔らかくする救いになっている面もあるとは思うので、主人公のキャラを気に入るかどうかにかかっているような気がします。

*1:漢字の「風」に濁点をつけて「ぶう」と読む