あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

僕らは『読み』を間違える/水鏡月聖(角川スニーカー文庫)【感想】

 

2023年1月26日読了。

 

あらすじ

すれ違う恋と、掛け違う推理。第27回スニーカー大賞《銀賞》受賞作!

学生という生き物は、日々「わからないこと」の答えを探している。
明日のテストの解答、クラス内の評判、好きなあの子が好きな人。
かく言う僕・竹久優真も、とある問いに直面していた。
消しゴムに書かれていた『あなたのことが好きです』について。
それは憧れの文学少女・若宮雅との両想いを確信した証拠であり、しかしその恋は玉砕に終わった。
つまり他の誰かが?
高校に入学した春、その“勘違い”は動き出す。
「ちょうどいいところにいた。ちょっと困っていたとこなんだよ」
太陽少女・宗像瀬奈が拾い集めてくる学園の小さな謎たち――
それらは、いくつもの恋路が絡みあう事件《ミステリー》だったんだ。

出典:https://sneakerbunko.jp/product/yomieru/322206000109.html

 

 

第27回スニーカー大賞《銀賞》受賞作品。受賞時の選評は以下の通り。

春日部タケル

読書感想文を起点として物語が進行していく、という構成が新鮮で、文学作品と登場人物の心情の格め具合もお見事一切なさを含みつつも、心地よい読後感を与えてくれるお話でした。
各作品を二度ずつ拝読したのですが、一度目より二度目の方が面白いと感じたのは、本作品のみ一伏線の妙を感じる一方で、初見で魅力を伝え切れていないのはもったいないな、とも思ってしまいました。
主人公優真の心情変化が明示されたラストが素晴らしく、個人的にかなりお気に入りな締め方でした。

長谷敏司

作者の能力について、非常に評価が高かった作品。若さを正面から叩きつけたような書きぶりですが、人物描写も、伏線の盛り方も、きちんとかたちになっています。楽しい空気と、人物を描くことに清新なセンスを感じられ、物語にも力があります。あとは、主人公が消極的すぎるので、もうすこし主人公を好きになれる仕掛けがあれば、よりよかったと思います。

スニーカー文庫編集部

文学作品を斬新な角度から解択した「読書感想文」をヒントに、恋愛や友情といった人間関係を取り巻く事件に解決の糸口を見いだす“青春 × ミステリー"作品です。
本好きの皆さんが楽しめるのはもちろん、登場人物の魅力をキャッチーに描けている点、本格ミステリーを糖いつつもキャラクター小説として親しみやすいバランス感覚が光りました。
ミステリーであり、ラブコメであり、友情を巡る青茶でもあり。ライトノベル読者のニーズが驚くようなスピードで変還する昨今、新たな地平への挑戦も込めて、大いに期待しています!

出典:https://sneakerbunko.jp/award/archive/entry-10552.html

 

感想

 正直小説としての出来はあんまり良くないです。黒髪文学少女みたいなのが過去含めると都合3人出てきてキャラ被りエグいし、会話はやたら芝居がかっててぎこちない。序盤の文豪の名作を題材とした読書感想文的トークパートは、妄想と言うより半分言いがかりみたいないちゃもんで説得力に欠け、しかも別に面白くはない。一応当たり前だと思っていたものにも別の視点からだと違う見え方になるよ的な、後半への前振りにはなっているのですが。主人公の一人称語りが典型的な捻くれ陰キャなのはまだいいとしても、ヒロインへの目線が結構キモいのがキツい。しかも作者自身も「キモい」ものとして書いてなさそうなのがなおさらキツい。オチもなんだか予定調和的で、どういう心境の変化を経てそこにたどり着いたのかいまいち掴みかねているところがある。

 といった感じでまぁ、散々なのですが、それでも後半のすれ違い群像劇は悪くなかった。様々なボタンの掛け違いが勘違いや視野狭窄を招き、相手と思った通りの関係を結べない。それは主人公のような捻くれた奴でも、リア充みたいな見た目の奴でも変わらない。そうした誤解を紐解いて、グッドコミュニケーションに導けたらいいんだけれども、当然時を戻して関係を修復することも難しいわけで、そういうほろ苦さがあったのも良かった。他人の感想で見かけたのですが、『ゲーマーズ!』をシリアスにした感じというのはかなり的を射たたとえだと思います。

 とはいえ、お世辞にも出来がいいとは言い難く、題材との向き合い方が良くとも、それを上手くラノベというエンタメに昇華できていない、という残念な印象の作品でした。