あすはひのきになろう

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死亡遊戯で飯を食う。/鵜飼有志(MF文庫J)【感想】

 

2023年1月25日読了。

 

あらすじ

第18回MF文庫Jライトノベル新人賞《優秀賞》受賞作


【二語十(『探偵はもう、死んでいる。』)&竹町(『スパイ教室』)解説収録!】

目を覚ますと、私は見知らぬ洋館にいた。
メイド服を着せられて、豪華なベッドに寝かされていた。

寝室を出て、廊下を歩いた。
食堂の扉を開けると、そこには五人の人間がいた。
みな一様に、私と同じくメイド服を着せられていて、少女だった。

〈ゲーム〉の始まりだった。
吹き矢、丸鋸、密室に手錠、そして凶器の数々。人間をあの世にいざなうもので満ち満ちている、そこは〈ゴーストハウス〉。
館に仕掛けられたトラップのすべてをくぐり抜けて脱出するしか、私たちの生き残る道はなかった。絶望的な現実に、少女たちは顔色を悪くする――

――ただ一人、私だけを除いて。

なぜかって? そりゃあ――私はこれが初めてじゃないから。

プレイヤーネーム、幽鬼《ユウキ》。十七歳。
自分で言うのもなんだけど、殺人ゲームのプロフェッショナル。メイド服を着て死の館から脱出を図ったり、バニーガール姿でほかのプレイヤーと殺し合ったり、そんなことをして得た賞金で生活している人間。

どうかしてるとお思いですか?
私もそう思います。
だけど、そういう人間がこの世にはいるんですよ。
おととい励まし合った仲間が、今日は敵になる。
油断すれば後ろから刺され、万全を尽くしたとしても命を落とすことがある――
そんな、死亡遊戯で飯を食う、少女が。

出典:https://mfbunkoj.jp/product/shibouyugi/322207001275.html

 

 

第18回MF文庫Jライトノベル新人賞《優秀賞》受賞作品。受賞時のタイトルは『死亡遊戯で飯を食う』。ペンネームは鵜飼有士。審査員のさがら総によるコメントは以下の通り。

 少女たちがデスゲームで殺し合う。
 言ってみればそれだけの話に対して、審査員二人が最高評価を、審査員二人が最低評価をつけました。ここまで読み手を選んだ作品は、ひょっとすると審査会史上初かもしれません。
 ぼくは最高点を記した側ではありますが、最低評価もむべなるかな、という感想を持ちます。このまま出版するならば、読者の半数からボコボコに叩かれるのもやむを得ないでしょう。
 しかしながら、ページをめくっているとき、先の展開が気になって気になって仕方なかった感情もまた否定できないのです。心のなかに隠れ住む中学生が、面白いねえ面白いねえと全力で叫んでかぶりついていました。
 大人のぼくが本作を叩いて丸めることはまったく適切ではありません。尖って尖って尖らせ、どれだけ深く読み手を刺すことができるか。そういう勝負をするべき作品だと思います。
 どうか、作中のキャラクターのように、したたかに生き抜いてほしいと願っています。

出典:https://mfbunkoj.jp/rookie/award/result/18/

 

感想

 デスゲームに何度も挑戦し、その賞金で生計を立てる少女のお話。作中では2回のデスゲームが描かれます。

 何十回もデスゲームに参加してるベテラン少女、という着想は面白いし、飄々とした小気味のいい語り口はむしろ好みでした。二編目で時を遡って主人公の原点を描く構成や、他のキャラクターと対比させる形で主人公の決意を導いていく展開も悪くない。もしこれがpixivのリョナタグを漁ってる時に見つけた作品なら絶賛してたと思います。

 しかし、結局のところ「コスプレした美少女がいっぱい死ぬと……楽しい!」の域を出ていない現状では高く評価するのは難しいというのが正直なところです。デスゲームものなのでそれはそれでいいのかもしれませんが、「四肢を切断しても血が流れず、血液は白いもこもこに変換される」という設定に象徴されるように、本作はデスゲームものの生理的な嫌悪感を巧妙に排除しつつ、美少女同士の殺し合いのみに注目させる構造を取っており、そこに気持ち悪さを感じるし、見たくないものに覆いをかぶせたためにデスゲームものに伴うはずの人の生死に向き合う姿勢が見えてこないように思われました。ただこうした構造は、トリッキーな題材を読者に受け入れてもらうための工夫とも言えるので、自分の好みとか価値観の問題が大きいと思いますが。ただ作品の肝であるはずのデスゲームの設定には大した工夫がないことからも、本作が美少女の殺し合いのみで勝負しようとしているスタンスの裏付けになる気がしますし、美少女もマジでただ美少女ってだけで、特にキャラの深掘りもないまま退場していく(安易な殺人鬼キャラとか本当にそう)のでイラストレーターのデザインに大分助けられているように見えます(その代わり本文の挿絵はほぼない)。

 とはいえ、作品としての質が低いわけではない(そのせいで逆にもにょる)ので、審査員の判断が割れたように、やっぱり好みの問題が大きそう。個人的には相容れがたいところのある作品でした。主人公以外のキャラはほとんど退場したので、やっぱりキャラの成長の積み重ねとかも主人公以外難しいそうな気がしますが、今後どう話を展開させていくんでしょうね。