あすはひのきになろう

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本と鍵の季節【感想】

 

本と鍵の季節

本と鍵の季節

  • 作者:米澤 穂信
  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: 単行本
 

2020年8月29日読了。

 あらすじ

堀川次郎は高校二年の図書委員。
利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。
そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。

放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。
爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!

出典:http://renzaburo.jp/yonezawa/

 

 

感想

 主人公たちの図書委員という要素をきちんと謎解きに活かしている点が良かった*1。僕は推理しながらミステリを読むタイプではないが、読者側にも推理可能な程度に手がかりが示されていたと思う。また、ミステリの王道パターンであるワトソン役とホームズ役による進行ではなく、探偵二人が(推理を競い合うわけでもなく)相互に補完しながら謎解きを進める点が珍しいと感じた。作中の謎のほとんどは二人が揃って始めて解決されるもので、これは両者の関係性を象徴しているようにも思える。作風としては米澤作品につきものの広い意味でもオープンエンドというのか、あえて描写を省くことでビターな読後感のあるものとなっている。この人の作品は一通り読んでいるはずだが、すっきりした読後感を味わったことはない気がする。特に印象的だったのは「ない本」。「探偵は謎を解き明かせば良いというものではない」ということがよくわかる話だった。あとは「図書館の自由に関する宣言」とか貸出履歴は個人情報なので明かせないとか図書館の小ネタが多くて個人的にちょっと嬉しかった。そもそもこの話の軸である「題名の分からない本を探す」という行為自体レファレンスにあたるしね。

 ただ、<古典部>シリーズや<小市民>シリーズに比べるとキャラの魅力が弱く、印象に残りづらいと感じたもの確かだ。二人の会話自体は小気味よくて読んでて楽しかったが、奉太郎の省エネ主義とか<小市民>の二人の小市民を目指す、とかそういうキャラを立てるための軸が欠けていたのではないかと思う。話が今回でまとまっていることもあり、シリーズ化する必要があるかには懐疑的だ。

*1:特に「913」と「ない本」