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吸血鬼に天国はない【感想】

 

吸血鬼に天国はない (電撃文庫)

吸血鬼に天国はない (電撃文庫)

  • 作者:周藤 蓮
  • 発売日: 2019/08/10
  • メディア: 文庫
 

 2020年9月17日読了。物語全体を覆う退廃的な雰囲気の中であがく主人公とヒロインが非常に魅力的な作品でした。

あらすじ

運び屋の気まぐれと、吸血鬼の嘘。だけど、それは確かに恋だった。

 大戦と禁酒法によって旧来の道徳が崩れ去ったその時代。非合法の運び屋シーモア・ロードのもとにある日持ち込まれた荷物は、人の血を吸って生きる正真正銘の怪物――吸血鬼の少女であった。
  仕事上のトラブルから始まった吸血鬼ルーミー・スパイクとの慣れない同居生活。荒んだ街での問題だらけの運び屋業。そして、彼女を付け狙うマフィアの影。
 彼女の生きていける安全な場所を求めてあがく中で、居場所のないシーモアとルーミーはゆっくりと惹かれ合っていく。
 嘘と秘密を孕んだ空っぽの恋。けれど彼らには、そんなちっぽけな幸福で十分だった。
 人と人ならざる者との恋の果てに、血に汚れた選択が待ち受けているとしても。

 非合法の運び屋と天涯孤独の吸血鬼の共棲を描くファンタジーロマンス、開幕。

出典:https://dengekibunko.jp/product/vampire_heaven/321904000056.html

 

 

 感想

 他の人の感想読んで気づいたんですけど表紙のルーミー、笑った口元を両手で隠しつつ目の端に涙を浮かべてるんですね。読後に見直すといろいろ考えさせられるイラストです。

 物語が進むにつれ、ヒロインに対する印象がめまぐるしく変化する作品でした。主人公と一緒に作者の掌の上で気持ち良く転がされましたね。ヒロインの持つ多面性を、主人公とともに読者も気づいていく、という物語構成も巧みだったと思います。主人公自身も、退廃的な時代の中で、あるいはだからこそなのか、非常に内省的で、こう単純な格好良さからくる魅力ではなく、内面からにじみ出るような魅力がありました。こういう自分がかっこ悪いことを自覚しつつも精一杯格好良くあろうとする主人公、好きなんですよね。特にラストの台詞、「それに僕は、ココアを入れるのが上手だよ」(p.329)(ネタバレにつき反転)、良い……。秀逸な映画を鑑賞し終えたかのような読後感でした。続刊も是非読みたいと思います。